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58.いざ大阪(15)
俺は基本的に、ミオと一緒に食事をとる時は、仕事の話をしないようにしている。
プライベートな時間に仕事を持ち出したくないってのもあるし、何よりミオは大切な恋人なんだから、食卓が明るくなる話で盛り上がった方が楽しいに決まってる。
たとえ、短期出張で大阪に滞在し続ける日々であっても、せめて晩ご飯の時間くらいはミオと二人っきりで、甘々なひと時を過ごしたい。
だから初日は奮発して、個室のある高級フグ料理店にやって来たんだ。いい思い出話にもなりそうだからね。
「わー! 見て見てお兄ちゃん、トラフグの唐揚げとご飯が来たよ!」
「いいねぇ。俺もフグのぶ厚い白身を唐揚げで食べるのは初めてだから、どんな食感なのかワクワクしてきたぜ」
思わず目を見張ったトラフグの唐揚げは、鮮やかな黄金色 を放つ絶品だった。もっとも食べる前の見立てではあるが、トラフグの身を包んだ衣の材料だとか、揚げる油とかの質にも妥協せず、高級なものを使ってそうなのは大体分かる。
「ねぇねぇ。唐揚げの写真撮ってもいーい?」
「うん。好きなだけ撮っていいよ」
「ありがと! すっごくキレイな色だから、いっぱい撮っておくねー」
ウチの子猫ちゃんも、よほど感激したんだろうなぁ。写真撮影にOKをもらったミオは大喜びでスマートフォンを取り出し、あらゆる角度から。黄金色に輝く唐揚げを撮りまくっている。
こんな感じで、高級フグ料理のお店で大っぴらにはしゃげるのも、防音の利いた個室に案内してもらえたからだろう。そう考えると、この時間に来店したのは大正解だったのかも知れない。
「お、良く撮れてるじゃん。ミオ、将来はプロのカメラマンになれるんじゃないか?」
「えー。ほんとぉ?」
適当な感想を述べたつもりはないんだが、ミオの懐疑的な反応を見る限り、さほどカメラマンとしての腕に自信があるわけではないようだ。
でも、いつも俺に送ってくれる「好き好きメッセージ」の本文と、添付された自撮り写真を見るにつけ、胸がときめいて仕方ないんだけどな。
いろんなところが際 どすぎて。
「色もだけど、匂いもすっごくいいね! トリさんの唐揚げとは違う匂いだよー」
「うん。確かに、いつも食ってる唐揚げとはまた違った香ばしさだ。秘訣は何だろ? 下味かな?」
「シタアジ?」
「そ。唐揚げを作る共通の手順なんだけど、あらかじめ醤油とか味醂 ……あとは生姜を使う事もあるか。とにかく、今言った調味料やら薬味を混ぜ合わせたボウルにトリ肉を漬け込んでおくのが、一般的な下味の付け方なんだよ」
実を言うと、これでも相当ざっくりとした説明である。そのせいか、ミオは「下味」という新たな言葉の意味するところに感心しつつも、まだ腑に落ちないところがあるらしく、依然として首を傾げていた。
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