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60.商談成立(4)
「――では、昨日お話を進めさせていただいた通り、洋風から和風への完全なお庭のリフォームと、池の温存という事で。完成図と見積書は、できるだけ早くお届けに伺います」
「ああ、頼むわ。事情が事情やさかい、三億円、キッチリ持っていってくれや。足りひんならもっと出すで」
「ええ? いえ、さすがに見積書の時点で予算オーバーは……」
「かめへん、かめへん。そこは、君が気にする事とちゃうねんから」
東条会長は呆れたように手を振る。一体どういうことだ? いかにお金持ちだとはいっても、自分が決めた予算を超えてもいいだなんて、普通は口が裂けても言わないよなぁ。
放蕩 にふける成金ならともかく。
「会長? それでは柚月さんがお困りになるだけですよ」
「そうか? ……ほな、まぁエエやろ。この際やから、三億円のカラクリをハッキリさせといたるわ。くれぐれもオフレコで頼むで」
美人秘書の京堂さんによる取り成しで、東条会長があっさりと考えを曲げた。関西圏内で、政財界に幅を利かせるほどの大物が、こうまで柔軟なのは珍しい。
おそらく京堂さんは、会長の秘書であると同時に、アドバイザーとしての働きも評価されて信用を得ているのだろう。でなきゃ、この豪邸の管理を一任はされないよなぁ。
「あらかたの話は聞いとるやろけど、要は、留置所におる柚月くんの元彼女に、携帯電話を貸した奴が泣きついてきたんや。それが大阪府警のナンバーツー、副本部長やったっちゅう事でな」
「はい、伺っています。電話を取った僕自身が、録音データを大阪府警に送りましたから」
「本人は酔った勢いや言うとるけど、そもそも酒に酔うた警察官がやな、女の顔見たさで留置所へ遊びに行くんがアウトやねん。あまつさえ、自分の携帯電話を貸すなんて、公私混同どころの話ちゃうやろ」
「仰るとおりですね。ただ、僕自身は、そんなに偉い人が関わっていたとは思いもよりませんでした。一体、あの女性の何に惹 かれたのか……」
他人行儀な言い表しだが、俺はもう過去を断ち切ったつもりなので、あの女を「元カノ」とは呼びたくなかった。
同じ美人でも、かたや優秀な秘書、かたや詐欺の常習犯。俺の個人的な感情を差し引いても、どちらが真っ当な道を歩んでいるのかは、一般論でカタが付くだろう。
「その辺はわしも知らん。ただな、単純にデータが届いただけやったら、あいつも自力でもみ消しができててん」
「え。そうなんですか!? だったら副本部長が、会長におすがりする理由はなくなりますね」
「せやさかいに、君の上司が楔 を刺しよったんや。大阪府の公安委員会にな」
こ、公安委員会!?
いかな経緯を辿 ったのか全く分からないが、聞けば聞くほど、話の規模がどんどん大きくなってくる。何なんだコレは?
せっかく大きな商談がまとまったのに、喜びよりも、胃が痛くて仕方ねぇ! できることなら今すぐ帰って、一刻も早く、ミオの膝枕で現実から逃げ出したいよ。
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