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61.中期滞在(2)

 こんな感じで、ミオの事を気遣ってくれる時の権藤課長からは、「鬼らしさ」がすっかり影を潜めるから不思議なもんだ。  豊富な人生経験から積み重ねた助言は大変ありがたいのだが、俺が今聞きたい事は育児のアドバイスじゃない。生水だろうが水道水だろうが、土地が変われば、その水質で腹を壊す危険性があるのは俺とて想定済みだ。  なので私生活の話は早々に切り上げ、誰が何の目的で、大阪の公安委員会に〝(くさび)〟を打ち込んだのかを、思い切って聞いてみた。  ……それから二時間後。  権藤課長の口から事の経緯を聞いた俺は、複雑な心境でモヤモヤを残したまま、ミオが待つホテルの客室へと帰ってきた。 「ただいまぁー。帰ったよ」 「お帰りなさーい! お兄ちゃん、今日は早く帰って来れたんだね。雨がいっぱい降ってるから?」 「ある意味、雨のおかげかもね。お庭工事を頼んできたお客さんが、こんな天気で釣りに行けなくなったからってんで、家にいてくれたのが幸いしたよ」  ミオが心配するといけないから、つとめて明るく受け答えはしたが、背広をハンガーに掛け、ルームウェアへと着替えるまでに、元気のなさをあっさり見抜かれてしまった。 「お兄ちゃん、何だか疲れてるねー。お客さんに嫌なことを言われたの?」 「はは、さすがに気付いちゃった? もっとも正確には、言われたのは嫌なことじゃないんだけどね」 「ふーん、そうなんだ。ねね、ボクがお茶を入れるから、お兄ちゃんが昨日もらってきた〝きんつば〟一緒に食べよ!」 「うん、ありがとう。ちょうど甘いものが欲しかったんだ」  ミオは手際よく〝きんつば〟を取り分けながら、客室の備え付けである玉露入りの緑茶を()れるべく、並行作業でお湯を沸かしている。実に合理的だ。  仕事の話で何があったのかは踏み込まず、ただ俺の疲れを癒してあげたいという一心のみで、ミオはここまで献身的に尽くしてくれるのである。俺にとっては理想の恋人像だよ。  個室でのフグ料理デートや、ショタっ娘ちゃんならではの膝枕でイチャイチャした昨夜の思い出。まだ大阪に来て二日目だけど、俺たちの、恋人同士としての距離間は急激に縮まったような気がする。  何しろ、十七歳も年下のミオに甘えさせてもらうだなんて、思いもよらなかったもんなぁ。 「――ふむむー。じゃあ、トージョー会長さんは、ほんとはカセ釣りって遊びに行きたかったんだね」 「そ。しかも早朝の四時からだぜ。大阪からクルマを飛ばして、高速の阪和道(はんわどう)(※正式名称は阪和自動車道)を通っても、二時間半はかかるってのにさ」 「え。そんなに早くからお出かけするの!? ボクだったら眠くて釣りにならないよー」 「ふふ、それが普通さ。ミオはまだ育ちざかりだからね。たぶん東条会長は、そうまでして串本へカセ釣りに行って、でっかい魚を釣って帰りたかったんだろうな」  ほぇー、と感嘆の声をもらすミオを微笑ましく見ながら、取り分けてもらったきんつばを口に運ぶ。奥歯でスリ潰した瞬間、つぶあんの甘みがブワッと広がってウマいの何の。  そりゃあ緑茶にも合うってもんだ。

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