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61.中期滞在(4)

 朝の「あまーい」おやつタイムを終えた俺たちは、大阪での中期滞在に備えるべく、当面の仮住まいとなるマンスリーマンション選びを始めた。  条件が良いマンションの候補は、権藤課長がリストアップして送ってくれたものがあるから、資料集め等々の手間は省ける。  ……が、裏を返すと、「会社はそれらの候補が定めた賃料以上は支給しないよ」という暗黙のメッセージでもあるため、だいたいどこも似たような間取りや賃料になる。  今日びのマンスリーマンションは整備が進んでいるので、ネット回線の無開通は、ほとんど有り得ない。客の足元を見て、高く設定した光熱費でボろうとしてくるところなんぞ、候補にするのもはばかられる。  その特性上、単身赴任を想定した間取りのマンションが多いものだから、ウチの三LDKマンションみたいに、ミオのための子供部屋を用意してあげられないのが何とも心苦しい。 「どう? 気に入りそうなとこある?」 「うーん?」  ミオの反応は鈍い。権藤課長が送ってくれた資料を見比べてはみたものの、たぶん設備や間取りといった条件が、いずれも似通っているからだろう。 「まぁオートロックは欲しいよな。安全って意味でさ。怪しい奴が何の前触れもなく、ドアの前に突っ立ってたら怖いじゃん?」 「あ! それ分かるかもー。お家の前にはカメラがないもんね」 「な。あとは、お風呂とお手洗いが別だったら尚いいんだけど、資料の中にありそう?」 「結構あるよ。お部屋の『アイダトリズ』を見て、別々になってたら良いんだよね?」 「そうそう、そういう事。ちなみに読み方は『マドリズ』だよ」 「はぇ!? そうなの?」  マンションの資料を見比べつつ、俺の訂正にも耳を傾けていたミオの目が、やにわに丸くなった。かような反応から察するに、おそらくこの子は、間取り図に触れる機会が今日まで無かったのかも知れない。  何にしても無理のないことだ。そもそもこの場は漢字読みを試す国会答弁じゃないんだから、チャッチャと終わらせて昼メシに備えよう。 「じゃあ、そこから更に候補を絞り込むとしてだ。次はミオの希望も聞きたいな。何があったら嬉しい?」 「んー……ベッド!」 「ベッド?」 「そ。お兄ちゃんと一緒に眠れるくらい、大きなベッドが欲しいの。ダメかな?」 「い、いやいやとんでもない! もちろんOKだよ。それじゃ今度は、ベッドのサイズがシングル以外になってるマンションを探してみようか」 「はーい!」  さっきよりも目の輝きを増したミオが、ウキウキしながら、各マンションに備え付けてあるベッドの大きさに目を通し始めた。  例えばウチのマンションや、夏休みに有給を取って遊びに行った、高級リゾートホテルのベッドなんかは、二人が横になってもまだ余裕がある。  もしも単身赴任を見越したシングルベッドだと、さみしんぼうのミオが、気兼ねなく潜り込めるだけのスペースを確保できない。あえて敷き布団を一式買い足すのも何だし、ここで妥協したくないミオの気持ちは大いに理解できる。  大人の俺にしたって、甘えんぼうのショタっ娘ちゃんとイチャつく事で、日々の疲れが癒やされるのはまぎれもない事実だ。であるからこそ、せめてダブルサイズくらいのベッドは確保したいよなぁ。

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