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61.中期滞在(7)

「食は力である!」 「ほぇ?」  あまりにも脈絡なく言い放ったもんで、ミオに「いきなりどうしたの?」と心配されてしまった。  が、この発言には根拠がある。  確かに、昼ご飯に食べた天丼はうまかったし、ミオの好きな魚介類を、天ぷらとして堪能させてあげる事もできた。  ただ、大雨で外出もままならぬ事態が災いし、宿泊客が集中したホテル地階の和食料理店は食材の枯渇と調達不可を理由に、早々と閉店してしまったのである。  そこで俺は、昼ご飯の前にミオが見つけた施設案内の一ページ、ルームサービスに目をつけたのだ。  しかも和洋中、よりどりみどり。サービスの性質上、ちぃとばかし割高にはなるが、だからといって、メシ抜きで寝るという選択肢はあり得ない。  なぜなら、我々人類に明日への活力をもたらしてくれるのは、何を隠そう「食」だからだ。入社一年目の社員研修において、メシ抜きの反動で朝ご飯を山ほどかっ食らい、本当に「食い倒れ」した佐藤という前例を、教訓(わらいばなし)とせねばならないのである。 「ということで、ミオ。晩ご飯はルームサービスを頼もう」 「うん。……んん? 『ということ』って!?」  さっきまで心の中で喋っていたから、ミオは今ひとつ事情が飲み込めていないようだが、とにかく、このままでは晩ご飯にありつけない事だけは理解したらしい。 「よく分かんないけど、お兄ちゃん。〝るーむさーびす〟って、ボクが見せた紙に載ってたお料理でしょ。地下のお店は閉まっちゃってるよ?」 「そう。だから、ルームサービスを活用するんだ。例えばメニューの中にある、お寿司盛り合わせの(ただ)し書きを読んでごらん」 「ただ、しがき?」 「ただと志垣(しがき)で区切ったら名字になるから、ここは区切らずに読もう。要するに、『ただし、◯◯ですよ』みたいに使う添え書きの事だね」 「なるほどー、じゃあ読んでみるね。えっとぉ、『こちらは〝さざ波寿司〟からのお届けになります』だって。……あっ!」  さっそく、ルームサービスのカラクリに気がついたようだ。やっぱりミオは賢いねぇ。要するにこのホテルでは、近隣にある外食のお店と提携し、和洋中それぞれの料理を、客室まで届けてもらう事ができるのである。  ……まぁ、そのサービスの性質上、相応なお代が必要になるわけだが、今そこを言及するのは野暮ってもんだ。 「スキッ腹のまんまで寝たら翌朝に響くからな。そのお寿司屋さんみたいに、近くのお店が料理を届けてくれるんなら、ルームサービスで腹を満たそうと思ってさ」 「ふむふむー。天ぷら屋さんが閉まっちゃったし、他の部屋に泊まってる人も、今ごろはボクたちと同じことを考えてるかもだね」 「あ、確かに。とにかく今日の晩ご飯はルームサービスの中から選ぶとして、品切れが起きる前に頼んじゃいますか。ミオ、何がいい?」 「お寿司!」  はやっ! これ以上ないくらいの即答だ。やっぱりウチの子猫ちゃんはブレがないねぇ。

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