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61.中期滞在(12)

 俺とミオが大阪に滞在して、はや一週間近くになる。九月も中旬を超え、じきに彼岸を迎えようという時期だが、残暑は未だ厳しい。夏真っ盛りとまでは言わないが、太陽の照りつけとアスファルトの照り返しは依然として強い。  そのため、俺とミオはできうる限りの軽装で街ブラへと出かけたのだが、どうやらこのあたりでは、ミオのようなショタっ娘が珍しいようだ。その証拠に、すれ違った通行人……主に中年男性らが振り返って二度見をしてくる。 「ミオ、何か視線を感じない?」 「んー? よく分かんない。まだ下校時間じゃないのに、お兄ちゃんと一緒にデートしてるからとか?」 「いや。たぶん、そっちよりもミオの服装が目を引いてるんだと思うよ」 「なんで? 地元にいる時は、普通に着てる服なのにぃー」  そう言ってミオは口を尖らせる。「郷に入っては郷に従え」ではないが、地元・神奈川県で暮らすミオのファッションセンスと、大阪府民のそれはおそらく異なるのだろう。なんて結論づけるのは簡単だが、おそらく、センスの違いだけでは説明がつかない。  今日のミオは、愛用のショートパンツ、いや、ホットパンツなのか? いずれにしても、丈の短いそれを穿いているので、露出の大きさが好奇の視線を集めた。と言えば聞こえはいいが、単純にやらしぃ目で見られているようだ。  この子は、自分のお尻と美脚が、世にはびこるスケベ男を惹きつけている自覚がない。現代は、男の子が男の子に魅せられるわけがない……という理屈が通用せぬ時代である以上、ショートパンツによって露わになる部分は、そのまま扇情的に映るのである。  シャツの襟も広く、鎖骨までが露出しているのも相当な色気をかもしているんだが、まだ、汗や湿気でシャツが透けるような事はないのが救いか。  ミオの彼氏である俺としては、ミオの全てを俺のものにしたいから、あんまり他の男を喜ばせて欲しくないんだけどな。 「たぶん、というか確実に、周りの人からはミオが女の子に見えるんだよ。服だけじゃなくってさ」 「でも、ボクはもう十歳だよー。女の子とは、体つきとかが違うでしょ?」 「ところが違わないんだな。ミオはまだ十歳だから、身長と体重は女の子とほぼ一緒だし、骨格もそんなに差がないんだよ。まぁ一般論だけどさ」 「そうなの? じゃあ胸は?」  そう言うや、ミオは手で両胸を覆ってみせた。発育が早い女子なら、おそらくこの歳からでもブラジャーの世話になる。  ただ、その逆でコンプレックスを抱く女子がいるのも事実であるから、それだけで、ミオを男の子だと断定するのは難しいだろう。 「ミオの場合、胸よりもお尻の方が育っているからね。育つ順番が違う女の子って思われてるかもだぜ」 「うーん……ボクって、そんなに女の子と違いがないのかなぁ?」  繰り返しになるが、ミオがしばしば女性的だと指摘される理由が分からないのは、本人に全くの自覚がないからだ。里親の欲目で何だが、そもそも、この子は体つきもさることながら、お顔の美形っぷりが図抜けており、「絶世の美女」ならぬ「絶世の美ショタ」であるので、尚更男女の見分けがつかない。  かつて、映画『ベニスに死す』で鮮烈なデビューを飾ったスウェーデンの俳優、ビョルン・アンドレセンを見れば分かるが、本当に美しい顔立ちをした男の子は、女の子に間違えられても何ら不思議ではない。  俺の恋人であるミオや、リゾートホテルで会った金髪碧眼の兄弟が、性別を超えた美貌を放ち続けるのは、皆が一様に「ショタっ娘」だからである。  それだけに、この子に悪い虫がつかぬよう、里親であり、彼氏でもある俺が監視の目を光らせておく必要がある。だからといって、おしゃれにまで制約を課すのは行き過ぎだしなぁ。  ただ、当分は大阪という、いろいろと勝手の違う土地で暮らさなくてはならない。だから、どんな奴がミオを付け狙ってくるのかが心配で仕方ないのだ。二人っきりでいられる間なら、どんな服やショーツでも、自由に着させてあげたいんだけどな。

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