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61.中期滞在(13)

「ただいまー。ウサちゃん、帰ってきたよー」  およそ一時間くらいの街ブラから戻ってきたミオは、マンションの部屋でお留守番をしていたウサギのぬいぐるみを抱き上げ、軽く口づけをした。 「ふぃーっ、暑かったなあ。街ブラにしては、ちょっと足を延ばしすぎたかな」 「ね。でも、楽しかったよ! 大阪って、ボクが初めて見るお店がいっぱいなの」 「そうなのかい? まぁ確かに、ちょっと大人な雰囲気の店は多かったよな。メシ屋さんだけじゃなくて、居酒屋とか立ち飲み屋、あとはガールズバーなんかも昼間っから営業してたし」 「んん? がーるずばーってなぁに?」  ウサちゃんを包み込むように抱き上げたミオが、目をキラキラさせながら聞いてくる。せっかくだけど、そんなに純朴な姿勢で聞くような話じゃないんだよなぁ。 「えーとな。その説明はちと長くなるから、お風呂で汗を洗い落として、湯船に浸かりながらお話してあげよっか」 「うん! また洗いっこしようねー」  ……とは言ったものの、だぞ。今、俺たちが仮住まいしているマンスリーマンションは、マイホームと違って浴場が狭い。果たして二人で一緒に温まれるのか?  まぁいいや、「案ずるより産むが易し」だ。つめつめにして浴槽に入れば、二人一緒に浸かるのもそう難しくはないだろう。     * 「ふぁ。ポカポカしてきもちい……」  俺に背中を向け、体を預けるように湯船に浸かったミオが、甘美の声を上げる。案の定、マイホームの浴槽とは比べ物にならないほど小さかったため、ミオを後ろから抱きかかえる形で、何とか二人一緒に浸かる事はできた。 「大丈夫かい? ミオ。窮屈(きゅうくつ)じゃない?」 「うん。平気だよー。お兄ちゃんが抱っこしてくれるから、ボク、幸せなの」  はぁぁ、何ていい子なんだ。浴槽が狭っ苦しいがゆえの妥協案だというのに、ウチのショタっ娘ちゃんは、そこに愛を見出していただなんて。  やっぱりこの子は天使だな。  ……ただ。いかに男同士だとはいえ、ミオが図らずも放っている女性的な魅力に対し、胸の高鳴りを抑えるのは相当に至難の業だ。  普段みたいに、着ている服の上から抱き上げたり、お姫様抱っこする時は何の気恥ずかしさもないけどさ。今のミオは「生まれたままの姿」だからな。  いや、そりゃあ同性の男の子に対して用いる表現じゃないのは重々承知の上なんだが、何しろミオは俺の彼女として付き合っているもんで、余計に意識してしまうのである。  ショタっ娘の全貌こそは(つまび)らかになっていないものの、女の子との性差をほとんど感じさせない存在である以上、「女の子と見なしても差し支えない」と割り切り、デリケートに愛してあげなくてはと思うのだ。 「ねぇねぇお兄ちゃん。聞いてもいい?」 「うん? いいよ。何が知りたいのかな?」 「お兄ちゃんって、他の女の人と、こんなふうに一緒のお風呂に入ったことはあるの?」 「え? ないよ。即答しちゃうのも情けない話だけど、そういう仲にまで発展しなかったからさ」 「ふーん……」  ミオはそれだけ言うと、自らの重心を動かし、より密着するようにもたれかかってきた。  どうやら俺の返事が本当だと信じて安堵(あんど)したらしく、だったら自分が真っ先に、浴槽での抱っこを独り占めしちゃおうと目論んだようである。

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