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61.中期滞在(15)
「さーて子猫ちゃん。髪の毛はちゃんと乾いたかな?」
部屋着に着替えた後、女の子座りで俺の胸板にもたれかかってきたミオは、髪の毛をもしゃもしゃされながら、うっとりした顔で甘えてくる。
「にゃんにゃーん。もっとナデナデしてほしいにゃんだよ」
彼氏の俺にだけ聞かせてくれる、子猫系ショタっ娘ちゃんの猫なで声が可愛くて仕方ない。かつて赤ちゃん猫のように、みーみー鳴きながら甘えられた時には、終始鼻の下が伸びっぱなしだった。
かようなシチュエーションに、例のコスプレグッズを加えてイチャつく〝お楽しみ〟の日も、いよいよ来月にまで迫ってきた。一日千秋とまでは言わないが、待ち遠しいよなぁ。
「いい子いい子。さて、甘えんぼうの子猫ちゃんは、ガールズバーと……クロッチの、どっちを先に知りたいのかな」
「クロッチの方をを先に知りたーい。ボクが穿いてるショーツに付いてる〝何か〟なんだよね?」
「そ。ミオが穿くショーツは女の子用なんだけど、股の内側部分に布が縫い付けてあるのを見たことあるだろ? その股布をクロッチって呼ぶんだよ」
「あ! 見たことあるー。でも、どうして女の子のショーツにだけ布があるの?」
「まぁ……そこはデリケートな事情が多いから何なんだが、あえて言うなら補強だね。ブリーフやトランクスは元々が丈夫な作りだし、そもそも布を当てる必要がないのさ」
「そうなんだ。お兄ちゃんって、ショーツのことにも詳しいんだねー」
そんな感想と共に、尊敬の眼差しで見上げてくれるのは嬉しいんだけど、「ショーツに詳しい」って褒め言葉は誉 れにならないんだよなぁ。一歩間違えれば、変態呼ばわりされちゃいそうだから。
あえてミオに説明しなかったデリケートな事情とは、平たく言うと、男女で体のつくりが異なるからだ。にもかかわらず、あえてクロッチ(股布)が無いショーツやらパンティーやらを生産するならば、生地自体に充分な強度を持たせなければならない。
なぜクロッチ無しの下着が生産されるのかは、あまりにも生々しくなるため「デザインと布面積の関係」、とだけ。
「ミオがいた施設の園長先生は、クロッチの事を教えてくれなかったのかい?」
「うん、何にもだよー。ボクがカタログを見て『コレが欲しい』って言ったら、園長先生は、いつもこう言うの。『ミオちゃんになら似合うわね』だって」
確かに似合っているし、ミオ自身も、女の子用の下着だと理解した上で穿いているのだから、知らなくても問題はないのか。気になるのは、クラスメートの男の子たちから、やらしい目で凝視されてやしないか? という点なんだけどな。
「他にも聞きたい事ある?」
「んーん、今度は〝がるばー〟のこと教えて!」
果たして略語か、あるいは単純にミオが覚え間違いをしたのか判然としないが、とにかく「ガールズバーとは何であるか?」を知りたい気持ちに偽りはないようだ。
「さっきの街ブラで見たお店に限って言うと、若い女の子が接客してくれる立ち飲み屋だったな。ミオはまだ、お酒に馴染みがないからピンとは来ないと思うけど、ああいうガールズバーは割と昔からあるんだよ」
「ふーん。でも、どうして立ったままでお酒を飲むの? 女の人は足が疲れたりしないの?」
至極もっともな疑問だ。これは立ち食いそばなどの店にも類似した問題だが、なぜ、イスに座ってのんびり飲食や接客をしないのか? という謎を優しく解いてあげなければ、ミオの知識欲は満たされないだろう。
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