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61.中期滞在(21)

「どう? おいしいかい? ミオ。こういう弁当は初めてだから驚いただろ?」 「そだね。でも、おいしーよ! サバは大好きだから、ご飯と一緒にいっぱい食べられるかもー」  その返事を裏付けるかのように、ウチの子猫ちゃんは、弁当箱に詰まった白飯の上にサバの塩焼きを乗っけている。食べやすいように切り分けた後、オン・ザ・ライスしているため、もしかすると、焼きサバ丼を創作して食べ尽くすつもりなのかも知れない。 「確かにご飯は進むだろうね。塩焼きは比較的味付けが簡単だし、サバ特有の脂分が好きな人なら、割とたくさん食べられるんじゃないか?」  焼きサバ丼を口に頬張っているミオは、ニコニコしながら、無言のまま何度も大きく頷いた。  こんな感じで、俺やミオがサバの塩焼きをダイレクトに口の中へ運べるのは、調理過程で骨取りをしてあるからだ。他の料理もそうなのかは知らないが、塩焼きでここまで丁寧に小骨まで取ってくれているのは有り難い。  サバ塩焼き以外のおかずには、スパゲッティや酢の物が少々と、何かのドレッシングをかけたキャベツの千切りなんかもある。食のバランスを考え、野菜の摂取も必要だと考えたんだろう。 「塩焼きがメインの弁当だからか、他のおかずは控えめにしてるっぽいな。まぁ、そんだけサバがいいご飯のお供になるって事なんだろうけど」 「うんうん。サバご飯おいしいもんね」  そんな反応を見るに、どうやらミオは白飯とサバの塩焼きだけで満足しきっているようだ。感覚としては丼物なのかもだな。 「おや。ここの弁当屋さんは、インスタントみそ汁も付けてくれてるんだな。お椀がないから、こいつは晩ご飯の汁物にしようか」 「そーだね。ボクもお腹いっぱいになってきちゃった」 「はは、無理もないな。ミオはもともと少食だし、事務所に届けてくれる宅配弁当も、基本的な分量は大人向けだからさ」 「ね。お野菜とご飯だけ食べちゃってもいーい?」  こんな風に、申し訳無さそうに許しを請うミオの慎ましさが、とにかく愛おしくて仕方がない。  こういう時は、優しい微笑みを向けて「いいよ」とだけ答え、ミオの頭をポンポンするのが最も良い。大人向けのお弁当を食べきれないのはこの子の責任ではないのだから、余計な罪悪感は取り除いてあげたいのだ。 「ありがと、お兄ちゃん。好きだよ……」 「はぅ!? う、うん。俺もだよ」  その返事を聞くや、ミオは食べ終わった弁当箱にそっとフタをして、猫なで声で抱きついてきた。どうやら先ほどの頭ポンポンで、ミオの恋心に火を着けてしまったようだ。  カワイイなぁ。ミオのこういうところ、ホント乙女だよな。

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