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62.お魚さん尽くし(4)

 今日、届けられた弁当のおかずには、カニかまのフライが二つ入っていた。「カニかま」と言うくらいだから、もちろんカニのむき身ではなく、練り物の一種である。  一般的なカニかまは、スケトウダラのような白身魚を〝すり身〟にして、カニのエキスと各種調味料、紅色着色料、その他諸々で作った加工品である。お手頃価格で見た目や風味を再現しようと頑張る、企業の努力には頭の下がる思いだ。  いかに子供とは言え、ミオだって本物のカニを衣に包んで揚げたとは思っていないようだが、箸を使って器用に身を割いては、カニかまの再現性を楽しんでいる。 「カニかまおいしいねー、お兄ちゃん!」 「うん、おいしい。揚げたてだからか、衣もウマイじゃん」 「そだね。ボク、アジフライが好きだから、色んなお魚さんのフライを食べられて、幸せだよぉー」  そう言って、ニコニコしながらカニかまのフライを頬張っているミオを見ていると、微笑ましい反面、ある意味気の毒にも思えてくる。  なぜならこの子は、生まれてこのかた、タラバガニや伊勢エビといった、高級な甲殻類を食べる機会に恵まれなかったからだ。  これは体質が云々という問題ではなく、ミオが保護されていた児童養護施設側の提案と計上した予算が、ことごとく認められなかったものによるらしい。そりゃ確かに高級食材だけどさぁ、年に一度くらいは許可してあげても、というのは部外者による身勝手な意見なのだろうか。  ……まぁ。今のミオは俺の保護下にある里子ちゃんだし、何より将来を約束した恋人なんだから、俺が食べさせてあげればいいだけの話さ。越前ガニだろうがクルマエビだろうが、イトヨリダイだろうが――おっと危ない!  そうそう、いよいよ明日に迫った外食デートの予定を、今のうちに話し合っておかなくちゃ。 「なぁミオ。明日行くデートの話だけどさ」 「うんうん。イトヨリダイのご飯を食べに連れてってくれる、デートのことだよね」 「そ。で、実はさ、お店の候補が結構あるんだよ。朝なら刺し身か煮付けの定食、昼ならムニエルかフライって感じで、各々お店が分かれててね。ミオならどれを食べたい?」 「へぇー、そんなにいっぱいあるんだ! 白ご飯と一緒に、煮付けを乗っけて食べるのおいしそうー」  ミオはお弁当を食べ進めつつ、時折目をつむっては、箸を止めて考え事をし始めた。どうやら、煮付けにしたイトヨリダイのオン・ザ・ライスに思いを馳せているらしい。  甘辛く煮たホクホクの白身を、これまたホクホクの白飯に乗せて食うんだから、そりゃオイシイに決まってる。煮汁が染み込んだ白飯は、それ単体でも箸が進むだろうし。 「でも、イトヨリダイの朝ご飯って、何時くらいからお店に行けばいいの?」 「え? そうだなぁ。俺が聞いた話だと、開店は早朝の四時らしいから、いつも朝ご飯を食べる時間までに、煮付け定食が残っていれば……」  って、あんまり悠長にしてちゃダメなのかな? 敏腕秘書の京堂さんがオススメしてくれた人気店だから、早々に売り切れちまうリスクを考えないといけないような気がする。  さりとて開店直後に食べに行くとしても、ここからお店までは、クルマで約三十分かかる。となると、最低でも明朝三時には起きて、タクシーを拾わなきゃ間に合わないのか。あんまり現実的じゃないなぁ。  さすがに三時起きじゃあ、まだまだミオもおねむだろうし。どうしたものかな。

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