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63.お魚さん尽くし ミオside(1)
「ミオちぃ、今日は市場の見学にも来たんやろ?」
くねくね踊りをしてたカズネお姉ちゃんが、いきなりマジメな顔で聞いてきた。
「そーだよ。イッパンカイホーは朝の九時からだってお兄ちゃんに教えてもらったから、ご飯の後に行くつもりだったんだー」
「あぁ。ほんでウチの食堂に、朝の九時で予約を入れてくれとってんやな。そら合理的やわ」
「イトヨリダイの煮付け、すっごくおいしかったよ! ボクでも食べ切れるくらいの大っきさだけど、お腹いっぱいになっちゃったー」
「ホンマ? 嬉しいわぁ。柚月さんからの電話で、事前にミオちぃは少食やから、ご飯は小盛りでお願いしますって聞いててんけど」
「じゃあ、もしかして、イトヨリダイも小ぶりにしてくれたの?」
「うーん、言うて微差やわ。ウチがいつも仕入れるイトヨリダイは、三十センチ前後で活きのエエやつばっかりやのよ」
「仕入れって、毎日買ってるってことだよね。お兄ちゃんに『ボクでも釣れる?』って聞いたコトがあるんだけど、波止 じゃ釣れないって教えてもらったのー」
「ハト? そら鳩では釣れんわいな。エサ一つ取っても、食いつく魚はそれぞれ違うんよ」
え? よく分かんない。波止釣りでイトヨリダイは釣れないけど、エサさえ変えれば釣れるってお話?
何だか噛み合ってないような感じになっちゃったけど、気にしないで見学を続けよっと。
「ねぇカズネお姉ちゃん。ボクたちが見られる市場って、写真を撮ってもいいの?」
「かめへんよ。せやけど、もう競 りは終わっとるさかい、あんまり映える写真が撮れるところはあらへんと思うけど」
「そうなの? じゃあ、あの変な車が走るところも見れないのかな?」
「変な車って何なん……もしかしてパタパタのコト?」
「名前を知らないの。見た目が丸くてオレンジで、一人乗りの車っぽいのがたまに走るところをテレビで見ただけなんだよー」
そこまで話したら、ぱあっと顔を明るくしたカズネお姉ちゃんが、手をポーンと叩いた。
「それ、やっぱりパタパタのコトやわ。ミオちぃ、ほら見てみ。変な車の正体はこれちゃう?」
カズネお姉ちゃんがそう言うと、バッグからスマートフォンを取り出して、指でシャーシャー動かし始める。
ボクが持ってるのと色々違うなあ。スマートフォンっていっぱいあるの? お兄ちゃんに、ハートをいっぱいつけた写真を送ったりするだけなら、シャーシャーしなくてもいいもんね。
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