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63.お魚さん尽くし ミオside(2)
「ミオちぃ、ほら見てみ。これ、オレンジで一人乗りで、変な車やろ? 通称はパタパタやけど、ホンマの名前は『ターレットトラック』言うねんでぇ」
カズネお姉ちゃんが見せてくれた写真は、ボクがテレビで見たのとよく似てる。でも、どうしてこれがパタパタなの?
「どうしてこれがパタパタなの?」
「まぁそうなるやんなぁ。ウチもよう知らんから説明できひんねんけど、四文字で済むからちゃう?」
「へえー。だったら『タレトラ』じゃダメなの? 同じ四文字だよー」
「……せやんな。そんなこと聞かれたん初めてやわ。食堂に戻ったらオカンに尋ねてみよか」
「うん! お兄ちゃんにも聞いてみよー。いろんなこと、たくさん知ってるからねっ」
変な車の名前は分かったけど、今の時間は市場であまりお魚さんは見られないし、パタパタも走ってないから、カズネお姉ちゃんは「センギョ」を売ってるお店に行くと面白いって教えてくれた。
「先に言うとくと、センギョは競り落としたばっかりの魚の事なんよ。新鮮な魚、それを音読みしてセンギョ言うねんでぇ」
「ふーん。じゃあ、そのお店でもイトヨリダイが見られるの?」
「見られるで! お店はようさん並んどるさかい、イトヨリダイの他にも、珍しぃて高級な魚がよりどりみどりや」
「そうなんだ。ボク、お財布持ってきてないけど、見に行ってもいいの?」
「かめへんかめへん。見学ツアーやさかい、お金の事は気にせんと見に行こ」
そう言ったあと、ボクの手を握ってお店に連れてってくれたカズネお姉ちゃんは、すごく楽しそうだった。もう、定食を食べずに帰ったおじさんのことは忘れちゃったみたい。
でも、イトヨリダイより珍しい魚ってなんだろ。ホウボウとかかな?
「よっ、カズネちゃん! えらい珍しいやないか、そんなカワイイ娘 連れて。友達か?」
「せやねん、今日からこの娘は友達や。ウチのイトヨリダイ定食を、予約してまで食べに来てくれてん」
「ほうかほうか、こないカワイイ女の子が魚に興味を持っとるんはエエ事や。お嬢ちゃん、ここには一人で来たん?」
むうー。ボク、また女の子と間違えられてるー。なんでだろ? 胸もお尻も大きくないのにぃ。
「えっと、お兄ちゃんと来たんですけど、今は大事なお話中で……」
「そうなんよ。せやからウチがこの娘に、仲卸 のお店には珍しい魚がようさん並んどるって教えて連れてきてん」
「ああ、ほんでカズネちゃんが案内役を務めとるんか。確かに珍しいて、ウマイ魚はたくさん仕入れとるさかいに、カズネ先生ならあんじょう教えてくれるわ」
〝あんじょう〟って何だろ? 大阪ってオイシイ食べ物がいっぱいあるけど、難しい言葉もいっぱい!
あとでお兄ちゃんに意味を教えてもらおっと。
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