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63.お魚さん尽くし ミオside(3)

「ほな早速、鮮魚売り場の中に入ろか。ヒヤッとするさかい、風邪引かへんように気ぃつけるんよ」 「うん、分かったー。でも、どうしてヒヤッとするの?」 「そらもう、売りモンの鮮度を落とさんためやん。鮮魚や言うからには、氷で冷やしとかなアカンねん」  なるほどー。そういえばこの間、お兄ちゃんにも似たようなお話を聞かせてもらったよね。オイシイお寿司のお話! 「それってお魚さんを氷で冷やしてるから、売り場もヒヤヒヤになるってことだよね?」 「うん。それで()うてるよ。さ、ほな最初はアカシタを見に行ってみよか。おもろいでぇ」 「アカシタ? アカシタ……あっ! それってイヌノシタのことでしょ? 確かに珍しいよねー」  カズネお姉ちゃんは、イヌノシタの名前を聞いてすぐ、ビックリした顔でボクの方を振り向いた。どうしたんだろ。ボクが何か間違っちゃったのかな? 「ミオちぃ、アカシタ知ってるん? 確か、神奈川県住みやったやんな?」 「そーだよ。ワンちゃんのベロに似てるから犬の舌って意味でついたんだって」 「神奈川県っていうか、東の方にはなかなか売ってへんて聞くで? せやのんに、ウチより詳しいのって何でなん?」 「えっとね。お魚さんを釣ったり食べたりするのがすっごく好きだから、かなぁ。お兄ちゃんにお魚さんの図鑑をいっぱい買ってもらって、いつも読んでるんだよー」  おっきな目をパチパチしたあと、納得したみたいな顔になったカズネお姉ちゃん。アカシタのことを知ってるわけを分かってくれたのかな? 「なるほどなぁ。確かにいてるわ、そういう()。ミオちぃはいわゆる〝サカ女〟っちゅうやつやんな」 「サカジョ? 何それ?」 「今、ウチが付けてん。聞いたことあらへん? 戦国時代とかの歴史に詳しい女の子たちを〝歴女(レキジョ)〟って呼ぶねん。それの魚介類版や」 「ふーん。でも、ボク男の子だよー」 「え? また冗談言うてぇ。ミオちぃ、さっき、柚月さんと結婚する言うたばかりやん」 「うん、結婚するよぉ。お兄ちゃんと約束したもん。縁結びの神社にも行ったんだよー」 「柚月さんと? ホンマに?」  何だか、アカシタを知ってたことよりボクへの勘違いと、お兄ちゃんとの結婚の方に興味があるみたい。  カズネお姉ちゃんって、お兄ちゃんっぽく言うと「移り気が激しい」のかもだねー。 「なぁなぁミオちぃ。ホンマに男の子なんやったら、証拠見せ……」 「てもいいけど、ボク、ここで裸になったらホントに風邪引いちゃうよ? ここには、お魚さんを見に来たんだから」 「ハッ!? せせ、せやった。ごめんなミオちぃ。ウチ、どうかしてたわ。ほな行こか」  お姉ちゃんは顔を真っ赤にすると、ボクの手を離して早足で歩き始めちゃった。もしかして、男の子と手を繋ぐのが恥ずかしくなったのかな?

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