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63.お魚さん尽くし ミオside(4)
「わ、すごーい! 生のイヌノシタ、初めて見たよぉ」
カズネお姉ちゃんが連れてってくれたお魚屋さんには、青いザルにイヌノシタを乗っけてた! 図鑑で見るよりずっと大きいんだねー。
「メッチャ大きいやろ? これが大阪湾から水揚げしたばっかりのアカシタやねん。まぁ大きい言うても、四十センチにまでは届かへんねんけどな」
「へぇー。頭の真上に目が付いてるみたいでカワイイよね。カレイとかヒラメの仲間なのかな?」
「カワ……イイん? ま、まぁそれはエエとして、お仲間さんの名前は『赤舌平目 』やさかい、アカシタもヒラメの仲間で合 うてるんちゃう?」
「あれ? じゃあ、アカシタはイヌノシタとは違うお魚なの?」
「え。ウチ、そんなん調べたことあらへん……お店のおっちゃんに聞いてみよか」
カズネお姉ちゃんは、ここのお魚屋さんとも知り合いみたい。ずっと同じ市場に通ってるから、みんなで仲良しになるのかな?
ボクもいつかはお使いでお買い物に行って、商店街の人たちと仲良くなれたらいいなぁ。
お兄ちゃんのお嫁さんになったら、ボクがお兄ちゃんの代わりに、いっぱいいーっぱい、オイシイご飯を作ってあげたいもんね。
「ごめんな、ミオちぃ。おっちゃんがおらんさかい、おばちゃんに聞いてみてんねんけど、違いは分からへんねんて」
「そうなんだ。何だか気になるから、お兄ちゃんに電話して聞いてみてもいい?」
「柚月さんに? そらぁかめへんけど、本職の魚屋でも知らん専門知識やで。ナンボ何でも――」
「大丈夫だよ! お兄ちゃんは『雑学王』だから、何でも知ってるんだー」
ボクがそう言って、ポケットから取り出したスマートフォンでお兄ちゃんに電話するまで、カズネお姉ちゃんはずっとニコニコしてた。
むー。そのニコニコは、お兄ちゃんでも知らないって疑ってるよね? 絶対そんな事ない……って信じてるけど、ホントに知らなかったらどうしよう。
「もしもし? ミオ?」
「あ、お兄ちゃん! 大好きー!」
「ヒャッ!?」
電話が繋がってすぐ、何かに驚いたカズネお姉ちゃんが変な声を上げるから、ボクまでびっくりしちゃった。
「何だ、今の悲鳴!? 大丈夫かい?」
「うん、何ともないよー。たぶん、冷たい水が首とかに落ちたんじゃない?」
「冷たい水って、和音 さんの首に?」
「そーだよ」
「ミオと和音さんが今いるの、鮮魚売り場だろ。そんなシチュエーションある?」
「んん? 今いるとこはお魚屋さんだから、シチューは売ってないよ」
「……何となく、状況と理由は分かったような気がする」
ほらね! やっぱり、お兄ちゃんは何でも知ってるんだー。
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