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63.お魚さん尽くし ミオside(5)
「――なるほど。要するにミオは、こっちでアカシタって呼ばれてるヒラメっぽい魚が、イヌノシタと同じなのかを知りたいわけだ」
「うん。魚屋のおばさんに聞いても分かんないって言うから、他に教えてくれる人がいないみたいなの。今、忙しかった?」
「大丈夫だよ。定食屋さんとの話が終わったから、俺もそっちに行くつもりだったし」
「そうなんだ! じゃ、鮮魚売り場の外で待ってるから、お兄ちゃんも一緒に見学してくれる?」
「もちろんいいよ。ちょっと寄り道するけど、すぐに向かうから待っててな」
「分かったー! ありがと、お兄ちゃんっ」
*
電話が終わってから、お兄ちゃんと会えるまで十分くらいだったけど、すっごく長く感じちゃった。どうしてだろ?
こういうの、たまにあるよね。教室の壁掛け時計を見てても、一秒の針がなかなか動かないように見えること。それと同じなのかも!
「お待たせ、ミオ! って、あれ? 和音さんと一緒じゃないのかい?」
「んーとね。さっき、『ウチ、ちょいお花摘んで来るわ』って、食堂の方に行っちゃったの。どうして急にお花が欲しくなったのかなぁ」
「あ? あー……いや、それは多分、急用ができたって意味で遠回しに言ったんじゃないかな」
「えぇー? じゃあそのまま急用でよくない?」
「ま、まぁそうなんだけどさ。和音さんにも色々な事情があるってことだろ。それより、はいコレ。ライフジャケット風の半袖パーカーだよ」
あ! このパーカー、さっきのお土産屋さんに並んでたやつ! 「着ても膨らみません」って説明と一緒に、面白グッズのコーナーで売ってたんだよねー。
「ここの鮮魚売り場は夏場でも冷え込むと聞いてね、お土産とプレゼントを兼ねて買ってきたんだ。と言っても俺って色合わせには疎 いから、自分が好きな青色のにしたんだけど。どうかな?」
お兄ちゃん、ボクが風邪を引かないように気を遣ってくれたんだ……やっぱり優しいー!
ボクの彼氏がお兄ちゃんで良かった!
「ありがと、お兄ちゃん! ボクも青いの大好きだよ。ずっとずーっと大事にするねっ」
「はは、気に入ってもらえて良かったよ。生地そのものは薄いけど、ちょっとは温かくなった?」
「うん。お兄ちゃんのおかげで、シャツにツンツンしなくなってきたよー」
「そっか。じゃあ土産物にしては、割としっかり作られ……って。ツンツン?」
「そだよ。寒くなったらツンツンするの」
「えーっと、具体的にどのあたりが?」
「ココとココ。皆にもあるから同じじゃないの?」
「あ。ああー、む、胸のね! まぁ人によるかもだけど、ミオはできるだけ重ね着してた方が、ツンツンしなくて済みそうだね。はははは」
ボクが指差したとこを見たお兄ちゃんは、笑い顔が引きつって真っ赤になってたけど。どうしたんだろ?
「むー。何だか気になるけど、お兄ちゃんも一緒に、イヌノシタを見に行こ?」
「そ、そうだね。せっかく来たんだから、ついでにうまそうな魚を見つけたら、買って帰ろうか」
「うん! ありがと!」
大好きなお兄ちゃんと一緒に、珍しいお魚をいっぱい見られるといいなぁ。
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