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63.初めて尽くしのお泊まりデート(3)
「お待ちいたしておりました、柚月 様、唐島 様! この度のご宿泊、誠にありがとうございます」
「あ、その……どうも。こちらこそ、お世話になります」
俺とミオが、頂き物の宿泊券を持って管理事務所へ訪れたところ、やけに恭 しい挨拶で歓迎された。なかなか耳にする機会がなく聞き慣れないのだが、唐島とは、ミオが貰った苗字である。
山間部にひっそりと存在する、キャンピング施設。それが『柏丹荘 』に抱いた第一印象だったのだが、一棟貸しのコテージに五連泊ともなると、やはり従業員の方々も心が弾むらしい。
あえて一般論で物を言うならば、ホテルであれ旅館であれコテージであれ、宿泊施設にとって最もありがたいのは、空室が減ること……即 ち稼働率の増加である。なぜなら単純に、宿泊費が儲けに直結するからだ。
もちろん、突然のキャンセルや盗難、迷惑客等々による諸々の損失に対する覚悟も必要だが、それもあくまで一般論の範疇 であり、少なくとも俺たちには当てはまらない。
俺とミオは計画を立てて今日という日を選んだのだから、いきなり倒れたりでもしない限り、キャンセルはあり得ない。さらに言うなら、コテージの備品を盗むほど浅ましくもない。そもそも迷惑客だと見なされていたら、宿泊券を譲り受ける機会にすら恵まれなかっただろう。
「ご用意したコテージは、こちらの、離れにある一等洋室になります。ご案内が必要でしたら――」
せっかくなので頼もうかと思ったが、どうやらその必要はなさそうだ。先ほどから、ウチのショタっ娘ちゃんが敷地内のマップに目を落とし、ここから宿泊先への道を指でなぞっている。
その様、まるであみだくじを辿 るがごとし。
「ありがたいんですけど、大丈夫です。この子はもう、最短ルートを導き出したみたいなので」
「え。ご宿泊先への道順をですか? 唐島様の……その、ご令嬢様が?」
「はい」
また例によって、ミオは女の子と間違えられたのか。たぶんこの子は、日本全国どこへ行っても、同じように間違われ続けるんだろうな。
とはいえ、せっかく集中力を高めている時に、関係のない話を振って邪魔をするわけにもいかない。ここは潔 く認めておこう。
ミオはれっきとした男の子だけどね。
「あの。今回は川釣りもやりたいんで、釣り場の情報を詳しくお伺いしてもいいですか?」
「かしこまりました。では、こちらの小冊子をお持ちください。お二人分の、管釣り回数券と割引クーポンが同封されております」
へぇ、ここは管理釣り場も運営しているのか。で、今もらった小冊子を読めば、いつ、どこで、何が釣れるのかをひと目で把握できると。
しかし、〝割引クーポン〟ってのは一体何だ?
……まぁいいや、その確認は部屋に着いてからゆっくりやるとしよう。まだお昼ご飯も食べていないのに、釣具の調達や、慣れない土地の走行やら何やらで、さすがに疲れが出てきた。
「では後ほど、ウェルカムドリンクをお届けにあがります。狭い室内ではございますが、どうぞ、ごゆっくりとお寛 ぎください」
いやいや、それはさすがに謙遜 が過ぎるでしょうよ。
俺とミオの二人だけで、別荘にも等しい規模のコテージを丸ごと使わせてもらうのに、その室内が狭いも何も。
「ねぇねぇお兄ちゃん。ボク、お部屋への行き方覚えたよ! テツヅキはもう終わりそう?」
「うん、今終わったよ。じゃあ、さっそく行き方を教えてくれるかな?」
「はーい! 最初は左側の階段を上るよー」
この子が独自に導き出すルートは、目的地まで最も早く、最も少ない歩数で辿り着けるものだというのは、デパートの件で証明済みだ。
ゆえに、みと俺が疑いを挟む余地はない。とても楽しそうに道案内をしてくれる、ミオの美脚に見惚 れ続けてさえいれば、目的地なんてあっという間なのだから。
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