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第3章 一年次・6月(5)
最初の敵が一番弱いのは当然だが、それでも茂のプレイは高度だった。あっという間にステージが終わった。
「お前すげえな」
感心すると、
「まあ、だいぶやってるし」
と照れ隠しのような笑顔で返され、はい、とまたコントローラーを渡される。ビールのせいで顔が赤くなっている。機嫌も良さそうだし、もしかしたら酔っているのだろうか。ふと温度を確かめたくなり、高志は手の甲で茂の頬に触ってみた。熱い。
「ん?」
「酔ってるか?」
振り向いた茂に、顔が赤い、と言うと、一度瞬きした後、こちらに近付いてきた。軽く唇が重なり、すぐに離れていく。
「――」
高志は、呆気にとられたまま茂を見つめていた。
「あ、しまった」
茂が自分の口を手で覆ってそう言う。何故かそれほど慌てた様子はない。
「悪い、藤代」
「……酔ってるのか?」
「いや、ごめん、練習台っていうか。ごめん」
――練習台? ああ、そういうことか。
そう納得しかけた高志の表情を見て、更に茂は言う。
「あ、違う、練習っていうか、復習」
ごめん、と何回か繰り返す。
要するに、近い過去に佳代とキスして、それを思い出したか何かで、高志にしてしまったということだろうか。
「……お前なあ、男にすんなよ」
「うん、まじごめん」
何故か笑いながら茂は答える。
「復習っていうか、単に舞い上がってるだけだろそれ」
「かも。ごめんな」
表情は緩んだままだが、何回も謝ってくるので、一応は悪いと思っているのだろう。
「いや、まあいいけど」
遥香と初めてした時のことを思い出すと浮かれる気持ちは分からなくもなかったし、特に腹が立った訳でもなかったので、流すことにした。茂も明らかに酔っている。
「藤代は優しすぎるんだよな」
と、いきなり自分の話になり、高志は「え?」と聞き返した。
「さっきも練習って言った時、『練習だったら協力してやろう』みたいな顔してたからさ」
「はあ? そんな訳ないだろ」
「嫌なことは嫌って言わないと駄目なんだからな」
「お前が言うな」
どん、と茂の腕を軽く殴る。
茂は笑いながら、いつの間にか床に転がっていたコントローラーを拾い、高志に渡してくる。受け取って、ゲームを再開した。
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