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第5章 一年次・10月(2)
学園祭の間も柔道部の練習は通常どおりあったので、高志は毎日大学に行った。二日目にふと思い立って茂のサークルが出している模擬店に寄ってみたら、茂はいなかったが、先日会った伊藤や水谷がいたので、少し言葉を交わして、売られていたフランクフルトを購入して帰った。家に着いた頃に、茂から不在を詫びるメッセージが来た。
遥香の引っ越しが完了した週の日曜日、実家に戻っていた遥香と落ち合い、そのまま遥香のマンションへ行った。家族には友達と遊んで夕方にそのままマンションに戻ると伝えてきたらしい。遥香の部屋は茂の部屋よりずっと狭かったが、細かいところに女性らしい意趣が施されていた。
それ以降、毎週日曜日は実家の近くで待ち合わせてそのまま遥香のマンションに行くのが習慣となった。たまに道中で買い物や食事をすることもあったが、今までお互いに実家暮らしだったこともあって、二人だけでいられる空間があることがとても貴重だった。
そうしてすぐに12月になった。ある日曜日、遥香が『年内提出の課題が終わらないから、来週は土曜日のうちにマンションに戻ることにした』と言った。それはちょうどクリスマス直前の週末で、課題云々はもちろん口実だった。遥香の言いたいことはすぐに分かった。
その土曜日、高志は部活が終わると急いで帰宅し、シャワーを浴びてから遥香と落ち合った。前々からクリスマスにはお互いに欲しいものをプレゼントしようと話していたので、まずは百貨店に行った。遥香は指輪が欲しいと言い、高志をショーケース前に連れていった。事前に下見してどれにするかも決めていたようだったので、高志はそのままそれを購入した。その場でつけるか店員に尋ねられた時、遥香が包装を希望していたので、後から理由を聞くと、クリスマス気分を味わうためとのことだった。
それから今度は高志の欲しいものを遥香に聞かれたが、高志は、欲しいものは思い付かなかったから何もいらないと言った。代わりにこの後買う予定のケーキを遥香が買うのはどうかと提案したのだが、約束したのにどうして考えておかないのかと遥香が怒り出し、それなら高志にも指輪を買うから選べと言い始めたので、高志は、本当は欲しいものはすぐに思い付いたけど、それは買えないと正直に答えた。高志の言う意味を察したらしい遥香が一瞬黙り、それから何が欲しいのか聞いてきたので、高志は遥香の耳元でそれを伝えた。そして、このまますぐに遥香の部屋に行きたいと言った。遥香は無言で頷き、ケーキだけ買ってもいいかと小さな声で聞いてきたので、地下の売り場で目に付いたものを適当に買い、そのまま駅に向かった。
部屋で一緒に過ごしていると、遥香が先ほど購入した指輪の入った紙袋を高志に渡してきた。クリスマス気分という遥香の言葉を思い出した高志は、綺麗に包装された箱を袋から取り出し、あらためて遥香に手渡そうとしたが、遥香は首を横に振った。高志は少し考えて、開けていいかと聞くと遥香が頷いたので、丁寧に包装を解き、ケースから指輪を取り出して、遥香の左手の薬指にはめた。
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