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第6章 一年次・12月(1)

「正月、やっぱり帰ることになったわ」 「え? 帰らないつもりだったのか?」  茂が溜息をつきながら言った台詞に、高志は少し驚いて返した。 「だって、帰ったって一週間くらいだろ。めっちゃ混んでるし、どうせ試験終わったらまた帰って、2か月くらいずっと向こうなのにさ」 「まあ、でもさすがに正月は親も言うんじゃないか」 「そう。親もじいちゃんばあちゃんもみんな帰ってこいって言ってる」 「正月に一人でこっちにいてもやることないだろ」 「ないのがいいんじゃないか」 「え?」 「お節料理とかお雑煮とか別に好きじゃないしなー」  勝手に話し続ける茂の言葉を聞きながら、高志はふと思い付いて言った。 「あ、伊崎さんと初詣でも行くつもりだった?」 「ん? 違う違う。佳代ちゃんは年末年始は毎年家族で海外に行くんだって」 「じゃあ、こっちにいてもやることないだろ」  同じ質問を繰り返す。茂がそれを聞いて笑う。 「だから、それがいいんだって。一人で思う存分だらだらするんだよ」 「……へえ」  形だけの相槌をうちながら、高志は茂の部屋を思い出した。多分あの部屋で好きなだけゲームをしたり漫画を読んだりしたいという意味だろうけど、一日や二日ならともかく、休暇中ずっとだと飽きるんじゃないだろうか。  そう考えてあまり納得していない表情の高志を、茂は横から面白そうに見ていた。  十日間ほどの年末年始休暇はあっという間に終わり、1月の授業が始まった。すぐに後期試験が始まり、それを終えるともう一年次は終了となる。 「もう一回生も終わりか。早いな」  試験の合間に食堂で昼食を取りながら、茂が言う。 「そうだな」 「この調子だと、何だかんだであっという間に就活が始まって、すぐ社会人だなあ」 「就職できればな」 「おい!」  軽口を叩きながら、高志は定食、茂は丼を平らげていく。 「まあ、藤代は問題なく就職できそうだよな」 「お前は卒業したら実家に戻るのか?」  茂の実家は兼業農家と聞いていた。祖父母が農業をし、父親は外で働いているらしい。 「どうしても就職できなかったら最悪その道もあるけどさあ、実家の方だとあんまりいい仕事もないし、就職するならこの辺とか東京とか、とりあえず都市部の方だろうな」  そう言う茂を見ながら、本当に就職に向いているのは茂のような人間だろうと高志は思う。組織で働くうえで、茂の気遣いやコミュニケーション能力は非常に役に立つだろう。 「まあ、まだあんま何も考えてない」 「だよな。俺も」 「とりあえず単位は落とさないようにしないとな、後で面倒だし」 「うん」

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