25 / 149

第8章 二年次・4月(4)

 部活が終わった後、高志は約束どおり茂のアパートに向かった。食べ物は必要ないと言われていたので、コンビニで缶ビールや缶チューハイを数本買った。前にサークル仲間がビールを置いていったと言っていたから、多分好きなのだろう。  インターフォンを押すとすぐに茂がドアを開けてくれたが、中から聞こえてくるはずの声や音が何故か全く聞こえてこない。妙な静けさを感じながら、高志はとりあえず靴を脱いで上がった。足元の靴の数も足りない。 「……ごめん」  居間に入ると、予想どおりそこには誰もいなかった。後ろから茂が小さな声で言う。 「サークルのやつらには、延期してもらうように頼んだんだ」  高志が振り返ると、茂は高志を見ずに俯いている。 「言わなくてごめん」 「これ」  高志がコンビニ袋を差し出すと、茂は気付いたように顔を上げて受け取り、「ありがとう」と言って冷蔵庫の方に行った。  座卓の上には、買ってきたらしき惣菜や飲み物が袋のまま置かれている。茂がキッチンから戻ってきた。 「別にいいよ」  高志は座卓の前に座りながら言った。 「何か話あるんだろ」 「……うん。ごめん」 「だから、いいって」  茂も高志の斜め前に座った。袋から食料を取り出して並べる。ペットボトルのお茶をコップに注ぐ。 「とりあえず食っていいか?」 「うん」  高志は割り箸を割って、適当に惣菜を食べ始めた。練習後のこの時間はいつもひどく腹が減っている。 「俺、お前のビールもらってもいい?」  茂が立ち上がりながら言った。「お前もいる?」 「今はいい」  ビールを手に戻ってきた茂は、座ってプルトップを開けると何口か飲んだ。それから沈黙が気になったのか、リモコンを手にしてテレビをつけた。そのままリモコンを高志に渡す。高志は何回かチャンネルを替えた末、ニュースを選んだ。 「お前、いつもニュースとか観てんの」 「他にいいのなさそうだったから」  バラエティ番組の明るい笑い声が、今は耳に障る気がした。茂はビールを飲みながら画面を眺めている。 「お前も食えよ」  高志がそう言うと、茂は面白そうに高志の方を見て、「俺、いっつもお前にそれ言われるな」と言った。そして割り箸を割って、少しずつ食べ始めた。  そのままニュースを観、たまに二言三言話しながら黙々と食べる。茂の話はおそらく佳代のことだろうと想像はついた。茂が話し出すまで急かすつもりはなかった。  とりあえず空腹が満たされるまで食べると、残った料理を指して「あと頼んでいい?」と聞いてみる。茂は「うん」と言ったが、おそらく端から食べ切る気はないだろう。つまみのように、ビールを飲みながら少しずつ食べている。  授業の時、茂は高志が泊まるつもりかどうか聞いてきたから、おそらく話はある程度時間を要するのだろう。もちろん高志も今更帰るつもりもなく、茂が必要なだけ付き合うつもりでいた。 「お前が食べてる間、シャワー借りていいか」  であれば、それ以外のことは先に済ませておいた方がいい。そう考え、茂が頷いたのを見て、高志は着替えを持ってユニットバスに向かった。  熱めのお湯で汗を洗い流す。シャンプーや石鹸などを適当に借りて体中洗う。歯も磨いた。シャワーを止め、ひとまず体を拭いたが、湯気の充満した中で服を着る気になれない。前は茂のサークル仲間がいたから仕方なく着たが、今日は茂しかいないので気を遣う必要もないかと思った。下だけ履き、上半身は肩からタオルを被って外に出る。

ともだちにシェアしよう!