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第22章 四年次・4月(5)
無意識に胡坐を崩していた高志の膝の間に、茂が入り込んでくる。至近距離で真正面からまた高志の顔を見、それから視線を落として高志の裸の胸を見た。
「……子供の頃って、ご飯たくさん食べてた?」
「え?」
突然変わった話題に、高志は一瞬面食らう。
「まあ、普通に」
「お前のお母さんって専業主婦?」
「いや、今は働いてる。パートで」
「いつ頃から?」
「よく覚えてないけど、多分俺が中学の時」
質問の意図が掴めないまま答えていると、茂が高志の胸に手で触れた。少しだけ筋肉の弾力を確かめ、それから鳩尾へと手を滑らせる。
「お前のお母さん、お前のこと可愛くて仕方なかっただろうな」
そのまま下ろした手で、今度は腹部に触れ、腹直筋の凹凸をゆっくりとなぞる。
「すげえ可愛くてさ、そんで毎日お前のために飯作って、それでお前がそれ食べて」
そうやってこの体ができたんだよな、と茂は高志の体を見つめて呟いた。
茂から家族の不和などは特に聞いた覚えがないことを念のため頭の中で再確認しながら、高志が「そんなの、どこの子供も大体そうだろ」と言うと、茂はあっさりと頷く。
「うん。俺も、実家帰ると未だに『もっと食え』って言われる」
そうやって笑うと、茂は高志の腹部に触れていた手を、更に下へと滑らせた。
「ちょっ」
敏感な部分を突然撫でられ、反射的に高志は身をすくめて茂の腕を掴んだが、茂は掴まれたまま手を上下に動かした。
「やめろって」
「藤代も同じだろ」
「やめ……え、何が」
「俺に何か食べさせようとするの」
「何?」
「いっつも、もっと食えって言うだろ」
「お前、どこ触りながら何の話をしてるんだよ」
「俺が痩せ過ぎだから?」
高志のそこは少しずつ硬くなり始めていた。
「は?」
「痩せ過ぎで貧相だから、食べろって言うんだろ」
「お前は細いけど、痩せ過ぎでも貧相でもない」
高志がそう言うと、茂は高志の目を見てきれいに微笑んだ。そして左手を伸ばし、高志の耳に触れた。耳たぶを軽く引っ張る。やめろ、と高志は思った。そんな仕草は単なる性欲から生まれるものじゃない。他の感情がなければあり得ない。
もっとはっきりと拒絶して茂の手を静止すべきだと、頭では分かっていた。しかし、その後に茂の口から発せられるかもしれない決定的な言葉が高志は怖かった。その笑顔が消えて、あるいは笑顔すら消さないままで高志に告げるであろう茂の決心を聞きたくなかった。何も言えないまま、高志が茂の目を見ながら静止する手に少し力を込めた時、耳に触れていた手が頬に触れ、茂の顔が再び近付いてきた。唇が触れると同時に舌も絡む。完全に拒否しきれないまま思わず目を閉じた高志の意識は、どうしても徐々に舌と下半身の感触を追い始めた。高志の手が緩んだ隙に茂の手は下着の中に入り、高志のものを直接握ってくる。しばらく扱かれた後、出し抜けに親指で先端を撫でられ、高志はわずかに仰け反った。
「……っ」
その一瞬の隙をついて、茂は高志の体を押し倒した。倒れ込んだ背中が畳張りの床にあたる。後頭部には茂の手の感触があった。すぐにその感触は去り、高志が目を開けると、自分を見下ろす茂の顔が逆光で陰になっていた。茂のもう片方の手は相変わらず、高志の下半身を刺激し続けている。そこは既に立ち上がっていた。
高志は胸を上下させながら、「……お前な」と言った。
茂の口角が上がるのが分かった。
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