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第27章 現在(4)
考えていると、あかりから声を掛けられる。
「藤代くん」
「ん?」
「さっきの話、半年後くらいでもいいですか」
「どの話?」
「連絡先の話です」
あかりが顔を上げる。普段の表情に戻っている。今からのことを考えて動揺しているとばかり思っていたら、茂と自分のことを考えていたと知り、高志はあかりの顔を見返した。
「もっと早く、多分年度内に細谷くんは連絡をくれると思いますけど。半年後ならお二人の気持ちも落ち着いて、新しい生活にも慣れている頃だと思うので」
「……待った方がいいって矢野さんは思うの」
高志が聞き返すと、あかりは頷いた。
「細谷くんも理由があって連絡先を変えたのでしょうし。それを私が邪魔するのも違うのではないかと思って……少し時間をおいた方がいいかもしれません」
「……うん」
「ただ、もしかしたらその頃には藤代くんの気も変わっているかもしれませんが」
そんなことはない、と言い掛けた言葉は、しかし口からは出ないままに消えた。時間の経過が及ぼす効果を、高志はもう知っていた。半年経てば、茂ですら過去の思い出になるのだろうか。それならいっそその方がいいのかもしれない。この執着が消えて、楽になっているのなら。
「だから、もし半年後にまだ知りたいと藤代くんが思っていたら、連絡してください。その時は必ずお伝えします」
今連絡しても、きっと茂は受け入れられない。今すぐ茂に会いたいと思うのは高志の勝手な思いだった。茂にとっては辛過ぎて切り捨てるしかなかった今のままの関係なら、消えてしまう方がいいのかもしれない。
でももし、半年経ってもやっぱり茂に会いたいと思えていたら。その頃には茂の気持ちにも整理がついていて、また笑って高志のことを受け入れてくれるだろうか。また二人で新しい友人関係を築くことができるだろうか。
「分かった。そうするよ」
高志がそう言うと、あかりは頷き、そして笑い出した。
「ふふ。細谷くんの言ってたこと、半分当たって半分外れましたね」
「え?」
「藤代くんが引き受けてくれたのは当たり。でも理由は外れ」
何故か嬉しそうに、あかりは続ける。
「ただ優しいからというより、細谷くんのためでしたね。引き受けてくれたのは」
「……」
高志が何と答えるべきか迷っていると、あかりは「じゃあ連絡先を交換しましょう」と言った。高志もスマホを取り出し、お互いのラインと電話番号を交換する。
「では、半年経っても必要だったら連絡してくださいね」
「分かった。6月な」
「はい。上手く連絡が取れるといいですね」
個人的には番号が役に立つ方が嬉しいです、と笑いながら言うあかりに、高志も自然と顔が綻んだ。そして穏やかな気持ちで言葉をかける。心からの感謝の言葉を。
「俺もそう思う。……ありがとう」
(第一部 完)
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