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第3章 8月-電話(2)

「細谷。お前、今どこにいんの」 『今? 家にいるけど』 「どこの?」  高志の質問の意味を理解した茂が、少し笑った気配と共に答える。 『O市内だよ』  それは高志がいるのと同じ市だった。 『お前は?』 「……俺も」 『はは。そうなんだ』  何度も聞いた茂の笑い声。電話越しのその声は少しだけ音がこもっていて、何故か懐かしさをいっそう引き立てた。 「細谷――」 『お前、何でこの番号知ってんの?』  高志の言葉に、茂の声が被る。口調は変わらないままのその問い掛けの内容に、高志は凍り付いた。 「――ごめん」 『え? いや、別にいいけど』  それは、茂が高志と離れるためにわざわざ変更したであろう番号だった。本来なら高志が知りようもなかったはずの。 「……この番号は矢野さんに教えてもらった」 『矢野さん?』  ああ、と電話の向こうで納得したような茂の声が聞こえる。茂が自分と話してくれているうちに、急いで高志は本題を伝えた。 「細谷。俺、またお前に会いたいと思って」  そして茂の拒絶が聞こえてくる前に、すぐに付け加える。 「今すぐじゃなくていいから。何か月後でも、一年後とかでもいいから、お前が会ってもいいと思った時に、また」 『――何言ってるんだよ』  茂の発する一つ一つの言葉が怖い。息をひそめながら高志が茂の言葉の続きを待っていると、茂の含み笑いが聞こえた。 『近いうち、飯でも行く?』 「え……?」 『家も近いみたいだし』 「……いつ?」 『いつでもいいよ。来週は?』 「俺はお前に合わせる」 『じゃあ、来週の金曜日にする?』 「分かった」  そのまま、待ち合わせの場所と時間を決めて、電話を切った。気付けば切っていた。  既にディスプレイが消えた黒い画面を見ながら、高志はしばらく放心していた。

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