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第3章 8月-電話(3)
月曜日、高志は終業後に希美を呼び出した。金曜日の埋め合わせも兼ねて食事に行くことにした。
二週連続で金曜日の夜に会えないことを希美に伝える時、高志は簡単に事情を話した。大学時代に行き違いがあって今まで音信不通になっていた友達と、先週ついに連絡が取れたこと。今週会うことになったこと。
それを聞いた希美は、
「それで先週も早く帰ったんだ? でも上手く仲直りできて良かったね」
と言って笑った。その表情を見て、高志も自然と笑顔になる。
「うん。良かった」
「金曜のことは全然大丈夫だよ」
「ごめんな」
「ううん。でももし空いてたら、代わりに土曜か日曜に出掛けない?」
「ああ、どっちでもいける」
「……両方は?」
「いいよ。泊まる?」
高志がそう言うと、希美は頷く。
「金曜に遅くなるんだったら、土曜は遅めに行くね」
「まあ、そんなに遅くはならないと思うけど。土曜の朝にラインする」
「うん」
家で待ってる、と言って希美は笑った。
――『藤代、ごめん』。
『ごめんな』。
あれから何度も思い出し過ぎて、今ではドラマのワンシーンのように頭の中に残っている、最後の茂の言葉。
金曜日、待ち合わせ場所に向かいながら、高志はまたあの日のことを思い出していた。
結局、あかりの言うように半年待っても、茂が過去のものとして遠ざかることはなかった。むしろ半年後には連絡が取れると思っていたから、高志はひたすらその時を待った。茂に会いたい気持ちは全く変わらなかった。
あんな風に高志との付き合いを断たざるを得なかった茂は、今はもう気持ちの整理がついたのだろうか。この前の電話ではごく普通の口調だった。高志だと分かった時、少し驚いてはいたが、嫌がっているようには聞こえなかった。いつもの如く、それが本音かどうかは分からないけれど。
今から茂に会えると思うと、再び高志の胸は緊張で締め付けられた。
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