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第4話:傷跡
真っ暗な玄関。
静かな部屋。
今日も、家には誰もいない。
「お邪魔します」
「適当にしてて。飲み物取ってくるわ」
「わあ!素敵なお家ー!すごい!」
「はしゃぎすぎだろ…」
俺は進藤を自分の部屋に案内をしたあと、冷蔵庫をあけて、ペットボトルの水を2本取り出した。
相変わらず何にも入ってねえ冷蔵庫。
テーブルの上にはいつも通り金が置いてあった。
「ん。これしかねえけど」
「ありがとう。気を遣わせてごめん」
そういえば…家に誰かを呼んだことなかったな。
あいつらとは、基本宮村の家に行くくらいだったし。
女も呼んだことがない。
「綺麗にしてるんだね」
「あんま見んな」
「ごめん…」
「…」
気まずい。
勢いで進藤を呼んだのはいいけど、気まずすぎる。
「あ、えっと…親御さんは?」
「…仕事。朝にしか帰ってこねえから気にすんな」
「そうなんだ。忙しいんだね」
「…さあな」
どうせあいつは仕事と言いながら、外で作った女の家に入り浸ってる。
きっと。
俺には関係ないけど。
どうだっていい。
「で、俺に聞きたいことあるんだろ」
「…あ、うん。…国村くんにも、言いたくない事はあるだろうし、無理に話してとは言わない。ただ、何か辛い事があるから、あんなにも辛そうにしてたのかなって。…だから辛さを共有したい」
「辛さねえ…」
誰かに話す事でもなくて、俺があと少し我慢すれば終わる事。
もしくは、警察に行って今まで殴って金を巻き上げて…ってしてきた事を話して、あわよくばこの現実からいなくなる事が出来れば解決する。
というよりも、辛いと思ったことが今までになかった。
置かれた境遇をただ受け入れるだけ。
「別に辛くねえよ」
「でも、じゃあなんであんな顔…」
「勘違いだろ。殴ってたから、手が痛かったんじゃね」
俺の身勝手な感情で周りを巻き込んでしまった事は本当に悪いと思ってる。
だけど、抑えられない感情。
俺は早く消えなければいけない。
「…そっか。もし、辛い事があったら言ってよ。無力かもしれないけど、力になりたい気持ちは変わらないから」
「…気が向いたらな」
進藤には絶対に分からない。
俺に無いものを持って、強く生きてるから。
「…うん。…よし、じゃあもう一個質問!国村くんの好きなタイプを教えてください!」
「胸がでけえ女」
「……胸か」
あからさまに残念そうにしてるけど、俺の恋愛対象は女だからな。
勘違いすんなよ。
と、言ってやりたい気持ちを抑え込む。
というよりも何故か言えない。
「…どうしても、俺は対象に入らないかな」
「ねえよ。てか、お前昨日付き合えなくていいとか言ってただろ」
「そうだけどさ…でも、やっぱり今日改めて思った。国村くんのこと、好きだなあって」
「…意味分かんねえ」
お前はどうしてそんなに俺なんかがいいんだろう。
俺には何も無いし、最低最悪な人間なのに。
なんでそこまで。
なんでそんなに真っ直ぐなんだろう。
「首…赤くなってるな。…本当にごめん」
「えっ?ああ、気にしないで。こんなのなんとでもなるし」
なんともなんねえだろ。
俺が付けた他の傷だって、まだ残ってるくせに。
「国村くんは何も気にしなくて大丈夫だから」
「…強いな、ほんと」
その強さが俺にはない。
時々羨ましく思う。
「国村くんを守る為にも、強くいなきゃだからね」
「なんだそれ」
俺は、こいつと一緒にいたら強くなれるのだろうか。
強く生きられるのだろうか。
「いま…笑った…」
「は?」
「国村くんが俺の前で笑った!」
大袈裟すぎる反応に、やっぱりこいつはよく分からないと思った。
「俺、国村くんが笑った顔好きだよ」
「…分かったって。もうそれ以上やめろ」
「あれ、ちょっと照れてる?顔赤いよ」
うぜえ。
こいつはうぜえ所は変わんねえな。
「可愛い!国村くん可愛い〜」
「やめろよ!くっつくな!!」
「可愛いくて好き〜」
まじでペースが乱れる。
やめてくれ。
はたから見たら絶対に地獄絵図だ。
男が男を抱きしめていて、股間を弄るとか…地獄絵図だろ…。
「は?」
「え?」
「お前…どこ触ってんの?」
「どこって…国村くんのちんこだけど…」
待って、俺、掘られんの?
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