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第7話:疑問
「ふぁああ…。眠…」
朝。
今日もいつも通りの時間に起きて、学校に行く準備をする。
昨日学校に行ったはいいけど、授業を全部サボってしまった。
今日こそは出ないといけないとは思うけど、まだあいつらのこと自分の中で答えが出ていない。
このままじゃだめなのは分かってる。
でも、どうしても会う気にはなれなかった。
…今日もサボりかな。
屋上にいよう。
部屋を出てリビングへと向かうと、昨日そのままにしてあった金が目に止まる。
…明日は土日か。
次帰ってくるのは月曜日の朝。
「ほんと、気持ち悪いな…」
俺はその金を机に置いたまま家を出た。
「あら、国村さんとこの」
「…おはようございます」
エレベーターまで来ると、同じ階に住む住人がほうきとちりとりを持って掃除をしていた。
…この人、俺苦手なんだよな。
エレベーターのボタンを押しても、この階は20階。
エレベーターが到着するまでの時間が地獄の始まり。
「大きくなったわねえ!もう高校生だもんね!」
「はは…」
これこの前も言われたわ。
この人いつも同じこと言う。
「ちゃんとご飯食べてるの?」
「はい、父が…作ってくれるので」
虫唾が走る。
その単語を言葉にするだけで。
本当は他の女の所に通ってる。
金が置いてあるだけで、あいつに飯を作ってもらった記憶はない。
だけど、少しでも評判良くしなきゃいけない。
後々めんどくさい。
「そうなのね〜。じゃあ安心ね。…あ、そうそう」
「どうされましたか?」
「…昨日、珍しくお友達連れてきてたみたいね。凄く綺麗な」
…この人の情報網どうなってんの。
これだから近所付き合いは嫌いだ。
噂大好きで卑しい人間。
そんな奴らが住んでるこんな場所、早く出たい。
俺がバイトする理由の1つ。
「はい、どうしても家に来たいって言われて」
ごめん、進藤。
嘘ついて、巻き込んだ。
「そう…。でも、気をつけてね?ここの人達うるさいから。その…男同士で付き合ってるんじゃないかって騒ぎ出すといけないし」
その言葉に一瞬、身体が硬直する。
「…あ、エレベーターきた」
「あら、じゃあ気をつけてね。行ってらっしゃい」
男同士で付き合ったら騒ぎ出す…か。
俺にはよく分からない。
男同士とか、女同士とか。
そもそも恋愛なんて本当にどうでもいい。
他人に迷惑かけない恋愛なら、別にいい。
だから他人が口出しするべきことじゃない。
なのにあの人は何を言ってんだろう。
…でも俺たちには関係ない。
俺は付き合うなんて考えてないし、前提として男の事は好きにならない。
なのに、少しモヤモヤする。
気持ち悪い何かが胸の中で蠢いた感じ。
なんなんだろう、この感じ。
「ダメだ、分かんねえ」
「何が分からないの?」
「わぁっ!」
後ろから突然声がして驚くと、進藤が立っていた。
「おはよう、国村くん」
「なんでいんの…お前…」
朝から会いたくない人間No.1だよ…。
「なんでって酷い!昨日約束したじゃん」
「えっ、…そうだっけ?」
「したよ、帰りに。なんで覚えてないの」
まったく身に覚えのない約束だな…。
他愛のない話をしながら俺たちは学校に向かう。
つい最近まで虐めていた相手なのに、なんだか変な感じがする。
「国村、ちょっといいか」
上履きを履いた直後、担任に声をかけられた。
ほとんど会話したことのない担任。
一方的に俺が避けてるだけなんだけど。
「国村くん、先に行ってるね」
「…おう」
「…進藤と仲良くしてるのか」
気まずそうな顔で、担任はそう言った。
どういう顔?
なんでそんな顔して…。
「…とにかく、職員室に来てくれ」
「…」
職員室に着くと、他の先生はほとんどいなかった。
もう少しでHRだもんな…。
「ここ、座って」
俺は、担任に差し出された椅子に座った。
「実はな…」
異常なくらい、怖い顔つきで担任は俺の目を見る。
「昨日の夕方頃、近所の人から学校に連絡があって、国村が…進藤を虐めていると。そういう連絡があったんだ」
正直なことを言ってしまえば、それは俺にとって今更な事に過ぎなかった。
目立つところに、時々傷をつけたことがある。
それに旧校舎だったとしても、頻繁に出入りしていれば誰かしらに見つかる可能性だってあった。
3ヶ月も経って今更。
「…本当のこと、教えてくれるか?」
「…そうですね。間違いありません」
俺は否定しない。
だって事実だ。
それに、これで現実から離れられる一歩になる。
担任は困ったように腕を組む。
「…でも、さっきのお前らを見てもそんな感じがしなかったんだ。正直、最初の頃のお前とさっきのお前じゃ比べ物にならないくらい、表情が明るくてな」
「え…?」
「とりあえず、状況の確認をするから。進藤にも聞いて、それからまた呼ぶよ。悪かったな、呼び出して」
担任に促され、職員室を出る。
進藤と会話するようになって、俺は変わったのか?
だって、まだほんの3日。
3日しか経ってない。
…つか、なんだよみんなして。
俺が進藤といるのがそんなに煩わしいのか?
今日だけで2回も進藤のことで何か言われてる。
「…近所の人?」
さっき、あいつ近所の人って言ったよな?
学校から出て虐めたことなんて、今までになかった。
基本的に旧校舎にいたし。
それに、旧校舎の教室なんて近所の人間が入って来るわけがない。
「謎」
考えていても仕方ない。
これは俺が望んでいた結末。
…進藤と離れてしまう事は、なぜだか少しもやもやするけど。
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