8 / 9

第8話:和解

「この間の件悪かったな、国村」 休み明け、学校に着くなりまた担任に呼び出され、証拠不十分のため、虐めは無かった事にすると、そう言われた。 …は? なんで? 「いや、俺、あいつのことめちゃくちゃ殴ったりしましたよ」 恐喝だってしたし。 証拠なんて進藤の傷でも見ればすぐに分かる。 あいつの傷はまだ残っているはずだ。 「証拠がなかったんだ。校長先生ともしっかり話し合った。とりあえず、お前ここ数日サボってたんだし、今日はちゃんと授業出ろよ」 どういう事? …もしかして、進藤は何も言わなかったのか? 俺は職員室を飛び出し、教室へと向かった。 廊下から見えた進藤は自分の席に座り本を読んでいた。 「っはあ…、どういう事だよ…っ」 「おはよう、国村くん」 走って来たから息が苦しい。 進藤は何事もなかったかのような顔で俺を見つめる。 「何で言わなかったんだよ…!」 それに腹が立ち、つい大声を出してしまった。 教室は静まり返り、全員が俺たちを見る。 しまった…。 周りを見ない癖。 俺の悪い癖だ。 「…国村?」 「滝本…宮村…」 何があったと言わんばかりの表情で2人が側に立っていた。 そうだ…こいつらなら…。 一緒にいたんだ。 きっと証言してくれる。 「なあ、お前ら…、こいつに対しての事だけど…」 「国村くん、ちょっと来て」 俺の考えに気づいたのか、進藤は話を遮ると俺の腕を掴み、教室から連れ出した。 「国村くんどうしたん…?」 「…さあ」 「おい、進藤…!」 「…」 勢いよく連れてこられたのは屋上。 相変わらず風が温い。 「…先生に、国村くんから虐めを受けてたのかって聞かれた。あの時、国村くんそれで呼ばれたんでしょ?何で言ってくれなかったの?」 進藤がそう話し出すと、次第に俺の腕を掴む強さがどんどん強くなる。 「…っ、それで、お前何て?」 「されてないって言ったよ」 「…なん、で」 訳が分からなかった。 虐めていた事は事実なのに、どうして…。 「何でって…。逆に何で?何で分かんないの?」 「え…?」 「俺、国村くんの事好きって言ったよね!?」 珍しく声を荒げる進藤に俺は呆然としてしまった。 「退学とか…色々大事になったらどうするの?俺は、国村くんと一緒にいたいのに」 「いや…それとこれとは別だろ…」 いくらなんでもそんな感情で無視していいはずが無い。 虐めていたのは事実なのに。 「うるさいな…。俺が良いって思ったらそれで良いんだよ!国村くん頭が堅いからどうせ俺の考えなんて分かりっこない!」 「はあ!?誰が頭堅いだ!」 「俺の目の前にいる人に決まってんじゃん!」 こいつ…っ!! 「……はあ。…俺は、自由になりたいんだよ」 現実と向き合う事にも、誰かを羨んで生きる事にも疲れた。 ここから離れないと、また同じ事を繰り返してしまう。 もうそんなのは嫌だ。 普通の人間になりたいのに。 「…ほら、辛そうな顔してる」 「え…」 一瞬目の前に影が降り、またあの感触が唇に触れた。 目の前は進藤の顔でいっぱいで、唇も暖かい。 「…俺、言ったよね。国村くんの支えになりたいって。…こんな気持ちにならなければ、先生に正直に言ってたと思う。だけど今は違う」 「進藤………勝手にキスすんなよ…」 「これくらい我慢してよ」 …進藤なら、俺を変えてくれるのだろうか。 どうしようもない人間なのに。 そんなことに、進藤を巻き込んでも良いのだろうか。 「…少しくらい頼って欲しい。完全に楽にならないかも知れないけど、少しずつ取り除いていこう」 まだ、進藤としっかり話すようになって数日しか経ってないのに、俺の中で少しだけ感じた。 …進藤が、好きかもしれない。 当然間違いであって欲しい気持ちもある。 だって、俺の恋愛対象は女だから。 でも進藤にキスされて嫌じゃなかった。 それに、真っ直ぐなこいつの気持ちに応えてやりたいと思ってしまった。 ただ…人として好きなのかも知れないけど。 「お前のこと沢山傷付けたのに…」 「…俺、ケンカ弱いから耐えるしか無かった。でも、どんどん国村くんの事知りたいって思うようになったんだよね。…ほんと、人間って分かんない」 今まで見たことのない綺麗な顔で進藤は笑った。 正直、まだ腑に落ちない部分はある。 今までのことを無かった事になんて出来ない。 …それでも、進藤は俺と向き合おうとしてくれる。 「…ありがとう」 俺も、進藤と向き合おう。 進藤の気持ちをよく考えて、答えを出そう。 そして…自分自身とも向き合わなければ。 「…え、待って…。あいつら、どういう関係…?」 「…」 「滝本くん、あの2人今き、きき、キスしてたよな!?」 「宮村、一旦黙れ…」 忘れていた。 俺はまだ、向き合わなければいけない奴が居ることに。

ともだちにシェアしよう!