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第8話:和解
「この間の件悪かったな、国村」
休み明け、学校に着くなりまた担任に呼び出され、証拠不十分のため、虐めは無かった事にすると、そう言われた。
…は?
なんで?
「いや、俺、あいつのことめちゃくちゃ殴ったりしましたよ」
恐喝だってしたし。
証拠なんて進藤の傷でも見ればすぐに分かる。
あいつの傷はまだ残っているはずだ。
「証拠がなかったんだ。校長先生ともしっかり話し合った。とりあえず、お前ここ数日サボってたんだし、今日はちゃんと授業出ろよ」
どういう事?
…もしかして、進藤は何も言わなかったのか?
俺は職員室を飛び出し、教室へと向かった。
廊下から見えた進藤は自分の席に座り本を読んでいた。
「っはあ…、どういう事だよ…っ」
「おはよう、国村くん」
走って来たから息が苦しい。
進藤は何事もなかったかのような顔で俺を見つめる。
「何で言わなかったんだよ…!」
それに腹が立ち、つい大声を出してしまった。
教室は静まり返り、全員が俺たちを見る。
しまった…。
周りを見ない癖。
俺の悪い癖だ。
「…国村?」
「滝本…宮村…」
何があったと言わんばかりの表情で2人が側に立っていた。
そうだ…こいつらなら…。
一緒にいたんだ。
きっと証言してくれる。
「なあ、お前ら…、こいつに対しての事だけど…」
「国村くん、ちょっと来て」
俺の考えに気づいたのか、進藤は話を遮ると俺の腕を掴み、教室から連れ出した。
「国村くんどうしたん…?」
「…さあ」
「おい、進藤…!」
「…」
勢いよく連れてこられたのは屋上。
相変わらず風が温い。
「…先生に、国村くんから虐めを受けてたのかって聞かれた。あの時、国村くんそれで呼ばれたんでしょ?何で言ってくれなかったの?」
進藤がそう話し出すと、次第に俺の腕を掴む強さがどんどん強くなる。
「…っ、それで、お前何て?」
「されてないって言ったよ」
「…なん、で」
訳が分からなかった。
虐めていた事は事実なのに、どうして…。
「何でって…。逆に何で?何で分かんないの?」
「え…?」
「俺、国村くんの事好きって言ったよね!?」
珍しく声を荒げる進藤に俺は呆然としてしまった。
「退学とか…色々大事になったらどうするの?俺は、国村くんと一緒にいたいのに」
「いや…それとこれとは別だろ…」
いくらなんでもそんな感情で無視していいはずが無い。
虐めていたのは事実なのに。
「うるさいな…。俺が良いって思ったらそれで良いんだよ!国村くん頭が堅いからどうせ俺の考えなんて分かりっこない!」
「はあ!?誰が頭堅いだ!」
「俺の目の前にいる人に決まってんじゃん!」
こいつ…っ!!
「……はあ。…俺は、自由になりたいんだよ」
現実と向き合う事にも、誰かを羨んで生きる事にも疲れた。
ここから離れないと、また同じ事を繰り返してしまう。
もうそんなのは嫌だ。
普通の人間になりたいのに。
「…ほら、辛そうな顔してる」
「え…」
一瞬目の前に影が降り、またあの感触が唇に触れた。
目の前は進藤の顔でいっぱいで、唇も暖かい。
「…俺、言ったよね。国村くんの支えになりたいって。…こんな気持ちにならなければ、先生に正直に言ってたと思う。だけど今は違う」
「進藤………勝手にキスすんなよ…」
「これくらい我慢してよ」
…進藤なら、俺を変えてくれるのだろうか。
どうしようもない人間なのに。
そんなことに、進藤を巻き込んでも良いのだろうか。
「…少しくらい頼って欲しい。完全に楽にならないかも知れないけど、少しずつ取り除いていこう」
まだ、進藤としっかり話すようになって数日しか経ってないのに、俺の中で少しだけ感じた。
…進藤が、好きかもしれない。
当然間違いであって欲しい気持ちもある。
だって、俺の恋愛対象は女だから。
でも進藤にキスされて嫌じゃなかった。
それに、真っ直ぐなこいつの気持ちに応えてやりたいと思ってしまった。
ただ…人として好きなのかも知れないけど。
「お前のこと沢山傷付けたのに…」
「…俺、ケンカ弱いから耐えるしか無かった。でも、どんどん国村くんの事知りたいって思うようになったんだよね。…ほんと、人間って分かんない」
今まで見たことのない綺麗な顔で進藤は笑った。
正直、まだ腑に落ちない部分はある。
今までのことを無かった事になんて出来ない。
…それでも、進藤は俺と向き合おうとしてくれる。
「…ありがとう」
俺も、進藤と向き合おう。
進藤の気持ちをよく考えて、答えを出そう。
そして…自分自身とも向き合わなければ。
「…え、待って…。あいつら、どういう関係…?」
「…」
「滝本くん、あの2人今き、きき、キスしてたよな!?」
「宮村、一旦黙れ…」
忘れていた。
俺はまだ、向き合わなければいけない奴が居ることに。
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