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第77話
ゆす、とベッドが揺れて、その反動で思いがけない場所まで宮下が入り込む。その度にとろかされた身体は素直に快感を拾った。
この家で初めて迎えた朝。
気持ち良さそうな宮下の吐息が部屋の中に散らばって、なんかもうそれだけで胸いっぱいになるのに、ただただ身体はひたすらに気持ち良くて。
俺の身体はいったいどうしちまったんだ?って感じに、本当に、ただひたすらに気持ちいい。ぬるま湯に浸かっているような、ゆりかごで揺られているような、ずっとずっと続いて欲しいような気持ち良さ。
ねむくなってきそうなほど心地よくて、だけど時おり奥を探られて、身体の真ん中がぞくりとふるえる。
そうするたびに、気持ち良いのゲージがいっぱいになって、どんどん次のステージに進んでいく。
やばい……。こんなの初めてなんだけど……。
頭のどこかで考えて、だけどすぐにとろっとろに蕩かされた脳が、考えることを拒否する。
「けーご……」
少し怖くなって名前をよぶと、耳元で「ん?」とこっちも蕩けきった声が聞こえた。その声さえ頭の中に甘く響いて、ぞわぞわと気持ち良さが増していく。
……これ、もしかして夢?
一瞬そう考えて目を開くと、カーテンのすき間から細長くひとすじ空の色が見えた。深縹から薄縹色に、朝へと続くグラデーションの空。
まだ夜は明けきってはいないらしい。
俺の視線に気付いたのか、後ろから抱きしめている腕がぎゅ、と強くなる。
「まだ夜です」
「……でも、朝になるよ。……っぁ」
ぐい、と奥までもぐりこまれて、びくりと身体がはねる。
「もっとこうしてたい」
首筋に、ぐりぐりと額をすりつけて甘える仕草に、きゅんと胸が引きつれた。
「うん……」
自由になる手を動かして、首元の宮下の髪をなでる。つるりとした黒髪はさらさらと流れて、シャンプーに混ざった宮下の匂いが濃くなる。
思わず腹の奥がきゅんとして宮下を締め付ける。
「……っ! も、そんなに、締めないで下さい」
その、耐える声にぞくぞくした。身体の中が勝手に動いて、宮下がそれに反応する。ぐぐ、と中で大きくなるのがわかった。
「もー……、それっ……っ」
「あ…んっ……、わざと、してる、わけじゃ……」
「……っ! またっっ……」
話す声まで身体の中に響いて、気持ち良さが増していく。すると宮下がまたそれに反応して……、その連鎖が止まらなくて戸惑った。
動かれてもいないのに、う、と息をつめて耐えていると、ゆっくりと身体を揺すられる。
「きょーへーさん……、うごきたい……」
「んっ、……て、も、うごいて…る、だろ……」
「……、がまん、できなくて」
「いーよ、うごいて」
そう言うと、ぎゅっと引き寄せられる。びくんと跳ねた足を片側だけずらして、そのすき間に宮下が身体を捩じ込むと、ぐっと奥まで届くようになる。
苦しさは全然なくて、身体の真ん中からしびれるみたいな甘い感覚だけがあった。いつもよりゆっくりと、味わうみたいに抽挿が繰り返される。
いつもは押し込まれる衝撃に声が誘われていたのに、ゆっくりとされると、掠れた声が甘えてねだるみたいに響いた。見慣れない天井と、うっすらと明るくなっていく空の色と朝の空気と。
全部が恥ずかしくて、よけいに甘える声がでる。
「ぁ…ぁん……、ちょ…、こえ、ゃ……」
「きもちいーです? いつもより、かわいいこえ、出てる」
これ、気持ちいい?と確認するようにいい場所を押されて、胎の中が甘くしびれる。身体に力が入らなくて、せめてぎゅっとにぎった手を、上から包み込まれて腕ごと身体を揺さぶられた。
「すげー、きもちいい……」
うっとりとした宮下の声に誘われて、身体がとろとろにとけていく。いつもよりゆっくりした動きで、長い時間をかけて追い上げられた。
時間をかけたぶんだけ全部がぜんぶ気持ち良くて、辛いことも苦しいこともなくて、頭がばかになったみたいな、夢みたいな快感だった。
中で宮下がかたくなった気がして、なんとなくもうそろそろと思ったころ。
「あ。」
宮下が何かを思い出したようにつぶやいた。
「どうした?」
「いや……ごめんなさい。そのまま挿れちゃった」
はぁ、と背中越しに吐かれた熱い息がぞわぞわして、宮下の気持ち良さが伝わってくる。このままイキたかったんだろうにがまんしている、それが可愛くて、自然と顔が笑ってしまう。
それと同時に、よくできた薄いゴム一枚といえど、受け入れる方だってなんとなく違いは感じられるもので。そうかなと思いはしたけれど、まあいいかなんて思っていた。
「……そんなん、いいのに」
「でも……」
「ほんと、いいって、気にしなくても……」
むしろそこに関しては、宮下がどう思うかの方が気になるっていうか。性器として使っていても、本来そこは排泄器官なわけで、やっぱり、ちゃんと準備した方が俺としては安心ができる。でも宮下が気にしないなら生だって、中に出したって俺はいいんだけど……。
「いいよ、ナカでイって」
「それは、それで、気になるんですよ」
「……ナカでイくの、すき、なんだけど……」
「また、そういうー……」
俺は本気で言ってるんだけど、いつも宮下はここでためらう。それもいつものやりとりのようになっていた。
耳元で吐き出される熱い息と、びくんと身体の中でははじける性器と、絞り出したあとの満足そうなため息と。それからあと、たらりと足の間を伝う温かい体液の感触。
びくびくと反射のように身体を跳ねさせるのも、そのひとつひとつが気持ちいいからだ。
「じゃあ……お腹に出していい? キスしてイキたい」
そんなこと言われたら嫌なんて言えるわけなくて、こくんとうなずく。俺の返事を確認した宮下は、ずらしていた足を大きくかかげると、抜けないようにうまく腰をまわして正面から抱きしめる形に体位を変える。
大きく動いたせいでかかっていた布団がまくれて、とさりと半分がベッドの下に落ちた。
ずっと顔を見ていなかったからか、正面から向き合って気持ちの良い顔を見せて、同じように上気した宮下の顔を見ると、恥ずかしくて仕方ない。
照れ臭くて思わず視線をそらして笑うと、宮下はこっちを見ろと名前を呼んで、そのまま「ん」とキスをねだった。両腕で宮下の首に抱き付ついて、そのまま唇を合わせる。
先で軽く触れ合ってから、舌と舌を絡める。
なんだかもうそれだけで、ふわふわと身体が浮いてくるみたいだった。もうすぐイクというより、もうイってるみたいな、そんな感じ。
「きょうへいさん、イクよ……」
息継ぎのすき間にそうささやかれたあと、少し乱暴に腰を引き寄せられた。奥まで潜り込んで、ぐっ、ぐっと何度か押し付けられる。いつもだったら叫ぶみたいな声を必死にかみ殺すそれでさえ、がくがくとふるえて、掠れた甘い吐息を吐き出すだけで。
一番奥まで突き上げたあと、ぬるりと引き抜かれて、びくんと跳ねた腹にあたたかいものが吐き出される。
「ぁ……」
腹で感じるその温度に、声が出た。がくがくとふるえていると、そのままぺたりと上に覆いかぶさっていた身体に抱きしめられる。
余韻でふわふわした身体が徐々に冷静さを取り戻そうとするのに、唇をもう一度唇で繋ぎ止められた。
きもちいい……。
他に、言い表せない心地よさに、ゆっくりと意識が落ちた。
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