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第6話

 翌日、三浦はお代を払いに店へやってきた。 「星宮さん、昨日はすみませんでした」 「いえいえ、お疲れさま。ありがと、お代は確かに受け取ったよ」  三浦から千円札を受け取り、レジの中へ入れる。  時間はいつも通り、晴人の休憩時間だ。店もそんなに混んでいない。いつもなら三浦は昼ごはんを摂っていくだろう。 「すみません、お邪魔しました。それじゃ」  予想に反して、三浦は店を出て行こうとする。  どうして、いつもなら食べていくのに。   「あ、待って」  晴人は咄嗟に三浦の服を掴んだ。 「えっ」  三浦が驚いた顔をしている。  晴人は自分の手元に視線を落とす。あっ、と言って、すぐに離した。  何をしているのだろう。顔に血が上ってきた。 「何かありましたか?」 「あ、その、ご飯は食べていかないの……?」  引き留めたうまい理由が思いつかず、晴人は馬鹿正直に答えてしまった。   これは完全に晴人が三浦を食事に誘っている。こんなことをしたのは初めてで、恥ずかしくて仕方ない。  堂々としていれば、普通に見えたのかもしれないが、もじもじとしてしまい、余計に居た堪れない気持ちになった。 「すみません、まだ仕事が残ってて、すぐに署へ戻らないといけないんです」 「そ、そうだよね。ごめん、引き留めたりなんかして」 「いえ、また来ますから」  その言葉だけで胸が痛くなる。嬉しいという気持ちが抑えきれない。また三浦に会える、と思い、晴人は笑顔を浮かべた。 「うん、待ってるか」 「あっ! 三浦くん! ちょっと待ってて!」  晴人の言葉を遮り、奥の方から理華が出てきた。何やら手に紙を持っており、こちらへ近づいてくる。 「三浦くん、水族館好き?」 「えっ? まあ好き……ですかね」  突然の理華の質問に三浦は辿々しく応えている。 「ちょっと姉さん、三浦くんは急いでるんだから」 「はいこれ、あげる」  晴人の言葉を無視し、理華は三浦へ何か渡していた。 「水族館ペアチケット」  有効期限が迫ってきていた。 「もらったんだけど、一枚だけ余っちゃってさ。良かったら、晴人を連れて行ってあげてくれない?」 「えっ、お、俺っ⁉︎」  晴人は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。  ペアチケットだから、二人の他に誘うこともできない。三浦と晴人が行くなら二人だけだ。 「お、俺はいいよ、三浦くん、友達とか同期とかと行きなよ」  三浦と一緒に水族館。勿論行きたい。だが三浦は昔、自分のことをふった人と行っても面白くないだろう。 「いや、星宮さんと行きます。今はちょっと急いでて、また連絡したいので、ラインのアカウントを交換しませんか?」 「ぇ、あ、ライン? あ、携帯、あれ?」  慌ててズボンのポケットを探るが、携帯が出てこない。 「事務所の机に置いてあったわよ」  理華に言われ、急いで奥に行く。携帯を取り、戻ってきて、姉と店ぐらいしか友達に入っていないアカウントに言われるがまま、三浦のアカウントを友達登録した。 「理華さん、ありがとうございます。星宮さん、また連絡しますね」 「うん! がんばれ!」 「連絡待ってるね」  理華の言った『がんばれ』の意味はわからないが、三浦と連絡先を交換してしまった。それが無性に嬉しい。しかも日程が合えば、二人で水族館へ行けるかもしれない。  嬉しく思う反面、気がかりなこともある。  昔、告白を振ったことを晴人は気にしているのだが、三浦はそこまで気にしていないのかもしれない。気にしていないということは、おそらくもう晴人に恋愛感情はないのだろう。  守原のことも、同僚が殺された、という感情から来るものだろう。  きっと晴人のことを気にしていたのも、かつての同僚を慰めたいという域を出ないのだ。  そこは残念に思う。だが、その先に進めるなんて考えていなかったから、これでちょうど良い、と無理やり納得させた。  お店に来て貰って、食事を楽しんでもら有だけで十分だ。それも三浦が異動するまでの間だ。  晴人はラインを開く。新しい友達欄には『三浦 青志』とある。  何度かその名前を押して、トーク画面を開いたり、消したりを繰り返した。

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