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エクセルの更新(8)

 月曜日と木曜日は燃えるゴミの日である。  昴はとっくに月曜日のゴミ出しでポイントを獲得するのをあきらめている。月曜日はぎりぎりまで眠るべき日なのだ。それなのに今日は妙に眩しくて、目が覚めた。  カーテンが開いている。エアコンは動いているのに、布団はガラス越しの太陽でぬくもっていた。スマホのアラームが鳴ったのであわてて止める。神里はいなかった。ティッシュの箱が布団の横に転がっている。  階段を降りると食べ物の匂いがした。コーヒーと、何かが焼ける香ばしい匂いだ。  そういえば今月のポイントをどう配分するべきか、話していなかった。エアコンはポイントに含まれるのか。 「飯、どうする」  顔を洗ってキッチンへ行くといつものように神里が聞いたので「食べる」と答えた。神里はうなずいてガスを止め、フライパンの中身をまな板にうつした。 「それ何」昴は見慣れない食べ物をかならず確認する。 「ホットサンド。昨日のチーズを入れた」 「これまで作ったことあったか?」 「実家で教えてもらった」  なるほど。昴は涼しいリビングに二人分のコーヒーと皿を運んだ。神里は通勤用のカバンにリュックの中身を移し替えている。昴はホットサンドを用心深く齧った。溶けたチーズが熱く、辛子が効いている。 「どうだ?」と神里がいう。 「うまい」 「実家にはホットサンドメーカーがあってさ。それ使うと挟んで焼くだけなんだけど、フライパンを使うやりかたも教えてもらったから」 「すごくうまい」 「そりゃよかった」  月曜日なのに昴が一分一秒を争うような状態になっていないのは、一回目のアラームで起きたせいか。神里は黙って自分のホットサンドを食べている。でかい口だな、と昴は思う。 「たしかにうまい。俺天才かもしれない」  大真面目な顔でいったので、昴は思わず笑った。 「でも実家のホットサンドメーカー、良かったんだよな。買いたい」  昴はコーヒーを飲み干した。 「買えばいいだろ」 「そうだな。買うか」  神里はのんびりスマホを眺めている。神里は昴より遅く家を出るくせに、たいてい昴より早く起きる。いつもながら謎だ。十年以上おなじ家に住んでいても、知らないことはたくさんある。十年以上おなじ家に住んだあげく、はじめて知ったことも……。  昴は夜中の出来事を思い起こす。あれについて何かいった方がいいんだろうか? 「昴」  唐突に神里が呼んだ。 「何」 「今週末暇?」 「何もないけど」 「じゃ、不動産屋に行こう」 「ああ、うん」  そろそろ時間だ。昴は皿とカップをキッチンに戻した。リビングから神里が手を振った。なんとなく手を振り返して靴を履き、外に出る。太陽の勢いはお盆前より少しだけ弱くなったような気がした。それでもまだエアコンは手放せそうにない。

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