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再インストール(6)
翌日の日曜日、昴は昼頃になってやっと起きてきた。
神里はリビングで本を読んでいた。昴はパジャマのまま神里をちらっとみて廊下に戻っていく。神里が後を追うと、風呂場の戸がバタンと閉まった。
「昴、大丈夫か?」
「うん」
水の音と湯沸かし器の唸りがきこえる。神里は落ちつかない気分のままキッチンへ行った。さっき作った焼きそばを皿に移していると、どうやら昴はシャワーを浴びたらしく髪を拭きながらやってきて、テーブルに座った。
「焼きそば食う?」
「食う」
ぼうっとした目つきで答えるので、温めなおした焼きそばに紅しょうがを添えて出し、神里はリビングのソファで本を読みはじめた。といっても、昨夜の出来事の張本人があらわれたせいか、ちっとも集中できなかった。流し読みしていると昴がやってきて、テレビをつけた。
昨日と同じゲームの音楽が流れた。昴は神里の隣に座ってコントローラーを握っている。ダイニハウスのころと変わらない休日の昼間だ。これまでとちがうのは、昨夜昴とセックスしたことだけ。
思い出したとたんにまた昴を意識してしまい、神里は本を読むのをあきらめてゲームを見物することにした。でも目はすぐ、テレビ画面ではなくゲームをする昴の方へ流れてしまう。耳にかかる髪とか、喉仏が動くところとか。
そんな自分にはっとして画面に視線を戻すと、昴はゲームを進めているわけではなかった。装備をつけたりはずしたりしているだけだ。そしてあきらめたようにコントローラーを置いた。
「ゲームしないのか」と神里はたずねた。昴がこっちを向いて「おまえは? 本読まないのか」と返した。
「なんか飽きてさ」
「僕も」
「昴もゲームに飽きるのか」
「当たり前だろ」
神里は何気なく腰をずらし、すると膝が昴の太腿に触れた。昴がまたこっちをみた。にらめっこをしているわけでもないのに、目があったまま、離れなくなって、手をのばした。
そして、またキスをしていた。
昨夜の続きのようなキスだった。何年もご無沙汰していたような、舌を入れる濃厚なやつだ。昴の背中に手を回し、唇を舐めまわして、歯のあいだをさぐる。昴がはぁっと息をもらし、そのとたんに股間が昂るのを感じた。神里は困惑しながらも昴をソファに押し倒している。両足をからませ、キスしながら服をさぐると、昴の手も神里のシャツをまさぐっている。昨夜のあれではまだ足りないみたいに。
隣りあって座るのならともかく、男二人がかさなりあうにはソファは狭い。
「昴」
「ん……」
「布団に行こう」
昴の耳がぽっと赤くなる。
「また――」
「嫌ならやめとく」
そういったものの、どうみても嫌ではなかった。おたがいに。
というわけで、カーテンで午後の光をさえぎった部屋で、神里はまた裸の昴の中に入っている。ぴったりと覆われる感覚にたまらず神里が腰を動かすと、快感のスポットに当たったのか、昴は声をあげて喘ぎはじめる。坂をのぼるように神里が射精の瞬間へたどりついたあとは、昴も精を放ってぼうっとしていた。やがて寝息がきこえてきたので、ティッシュをゴミ箱に放り込んで神里も横になる。
なぜか、一度セックスした今はこれまで昴と何もなかったのがおかしなことだったような気がして、同時にそう感じる自分に途惑ってもいた。
でもまあ、男同士だからな。
これまでだって、まったく何もなかったかというと、そうでもなかったのかもしれない。
これで何か変わるんだろうか。それとも何も変わらないんだろうか。
昴とはずっと前からつながっていたような気がしていた。この先もそれは変わらないんじゃないか。そんなことを思いながら、神里もゆるやかな眠りに落ちていく。
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