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第2話
僕と玄さんの出会いは一年ほど前に遡る。
僕はまだぴちぴちの大人になりたてで、世の中のことは全然分からないけど、でもちょっと冒険してみたくて、いた。
かっこいい音楽が流れる店でお酒でも飲んでみたいな、なんて思って、近くの小さな店に思い切って足を踏み入れた時があった。
ちなみに僕に友達は少なく、一緒に行ってくれるような人はいなかった。
そこは昔から遠巻きに見ていた地元のお店だから、とりあえずは一人で入れるかなって思った。でも入ってみたら思ったよりも大人っぽくて、僕はやっぱりちょっとビビッてしまった。
僕はカウンターに通され、飲み物を店長兼バーテンダーのような人に聞かれたけれど、何を頼んだらいいのかもよく分からなかった。だから、とりあえずテレビのCMでよく流れているハイボールを頼もうとしたんだけれど、頼んでみたらウイスキーにも色々種類があるようで僕はいっそうよく分からなくなったものだった。
首筋にじっとりと余計な汗をかいた僕に、店員さんは優しくおすすめを教えてくれたので、僕は素直にそれを頼んだ。
それでほっとした時に、横を見たら座っていたのが玄さんだった。
「ここは初めて?」
玄さんは、落ち着かなそうな僕を見かねた様子で話しかけてくれた。
僕はといえば、焦って頷いた。だって相手が、いい体格にスーツを着たいかにも大人の男っぽい人だったからだ。ちなみに僕は、せいぜい格好つけてシャツを選んではみたものの、着古して多少布地が毛羽立った様子が店の照明でわかった。
「俺も初めてなんだ。いつもはもっと、普通の居酒屋とか」
彼は、緊張している僕を解きほぐすためなのか、くだけた様子でそう言った。それでも、落ち着いた声音は十分大人っぽかったし、優しそうな様子に僕はすぐに好感を持った。
彼はスーツの腕を多少捲り上げて、下部がきゅっとくびれているグラスで、ビールを飲んでいた。泡が細かくて、ただのビールのはずがとてもきれいに見えた。
それから、夜で伸びかけた髭がセクシーだった。
「姉の付き合いでさ。こんなオシャレな店に連れてこられて」
そういうお姉さんは、どうやら手洗いにでも行ったようだった。
店のBGMはよく分からないけどJAZZのようで、ひんやりと冷たいような店の雰囲気に、スーツを着た玄さん。その太い筋張った手首に、特にブランド物でもない大きな腕時計。
僕は、一目で玄さんに恋をしてしまった。
ちなみに、僕はもうとうに自分の恋愛対象が男性だと自覚していた。
友達が少ないのもそのせいだった。黙っていたけど皆とは違うと感じていたし、話も合わないことも多い。
「あ、あの、僕まだ二十歳を過ぎたばかりで。出来たら居酒屋でも飲んでみたいです」
僕は勢いで玄さんに言った。
急に飲みの誘いをする僕を、玄さんは驚いて見た。そりゃ大分若い、しかもたった今たまったま出会ったばかりの同性から急に飲みに誘われたら、変な気しかしないと思う。
玄さんは、しばらく僕の真意を計るようにキョトンとしていて、それから「仕方がないなあ」とでも言うように……優しくふっと笑ってくれて、
「それじゃ、居酒屋でも飲むといいよ」
という、ただの相槌のような返事を返してくれたのだった。
それは一緒に飲みに行ってくれるという返事ではなかったかもしれないけれど、僕は玄さんのその時の笑顔にすっかりときめいてしまって喜んでいた。
それから僕たちはしばらく話をして、やがて本当に居酒屋に連れてってもらうという約束を取り付けた。
それから、二度目に会った後で僕は勢い余って外で玄さんにキスをした。
路上でキスをされた玄さんは、すごく驚いて困った顔をした。
それもすごく魅力的で、僕はもう気持ちが止まらなかった。
これが玄さんと僕のなれそめだ。
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