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第3話

…………… 大きな音が下から聞こえて、まだ眠たいが目を覚ました。 昨日はしばらく花蓮の喘ぐ声で眠れずにいた。 義父が帰って来る頃にはもういなかったみたいだけど…… 起き上がり、制服に着替えて下にある扉を開いた。 そこには、屋根裏部屋に入る時に必ず使う梯子が倒されていた。 それだけならまだしも、床に光る粒が沢山見えた。 ほとんど毎日の事だから分かっている、あれは画鋲だろう。 そして、画鋲を置いたり梯子を倒したのは花蓮だろう。 今日は見ていないが、前に花蓮が物置部屋から出ていくのを見た事がある。 俺は枕を取り出して、枕を先に落としてから降りた。 枕がクッションになり、画鋲が刺さる事はなかった。 少し衝撃で腰が痛かった、でもこのくらいなら慣れたものだ。 枕を掴むと大量の画鋲が刺さっていて、枕がなかったらいくら画鋲でも大怪我になっているだろう。 物置部屋を出ると、部屋の横の床に食事が置かれていた。 俺の朝食だ、リビングで皆と食う事を許されていない俺は廊下で食べる事になっている。 ちなみに食事は、野菜炒めの汁と具のない味噌汁…当然ご飯はない。 汁物を飲んで、食器は使い捨てのものだから学校帰りに捨てる。 階段を降りたら、トイレから出てきた義父と鉢合わせした。 俺が挨拶をする前に腹に重い拳がめり込んで一瞬息が出来なかった。 「ぅっ…ごほっ」 「なんだその汚い格好は!!お前がいると家が汚れるだろうが!!」 何度も何度も腹を殴られて、倒れたら胸ぐらを掴まれて立たされる。 固形物を食べていなくて良かった、きっと吐いていただろう。 花蓮の明るい「行ってきます!」という声が薄れゆく意識の中で聞こえていた。 意識を失ってもすぐに起こされて、逃げられない。 しばらく続いてやっと解放された時は遅刻が確定していた。 また教師に怒られ、クラスメイト達に泥を浴びせられる毎日が始まるのだろう。 高校も花蓮や同級生が何人かいるから、高校生になっても何も生活は変わらない。 変わらないけど、バイトが出来るから少しは希望が持てる。 俺が一人で生きていく大切なお金だ。 今日は泥水ではなく、ゴミ箱のゴミを掛けられた。 ゴミなら制服が汚れないから良かった、俺の感覚が可笑しいのかな。 帰り道を歩いていたら、昨日のところにまた人がしゃがんでいた。 ブツブツなにかを言っている、また声を掛けたらまた驚かせるだろう。 今日は声を掛けないようにしようと思い、横を通ろうとした。 後ろから足音が聞こえて、俺の肩にぶつかった。 また肩が痛くなったデジャブを感じていたら、その後ろ姿に見覚えがあった。 まさかと思い、後ろを振り返るとやはり電柱には誰もいなかった。 足元にはブレスレットがあり、また落としたのかと苦笑いした。 昨日と同じように電柱に掛けて、歩き出した。 今日はまだ花蓮が帰ってなくて、屋根裏部屋に入り制服を脱いだ。 上着のポケットに膨らみがあり、何かがはみ出ていた。 それを掴んで見てみると、さっきのブレスレットがあった。 電柱に掛けたと思ったのに持って来てしまったようだ。 電柱に戻しに行こうと思い、屋根裏部屋の扉を開くと花蓮が梯子を持っていた。 俺に気付いた花蓮は俺を睨みつけて嫌な笑みを浮かべた。 梯子を持ち上げるから、慌てて屋根裏部屋の扉から離れた。 梯子が突き立てられて、あのまま見ていたら顔がどうなっていたのか、想像したくない。 すぐに梯子を倒されて、花蓮は部屋を出ていった。 心臓がドキドキしながら、屋根裏部屋から出た。 そして電柱にブレスレットを掛けて、家に戻る事にした。 いつの間にかまた花蓮が男を連れ込んでいて、眠れない夜を過ごした。

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