4 / 8

第4話

自分の部屋で俺はあるものを見つめて考え事をしていた。 それはあのブレスレットだ、当然俺が持ってきたわけではない。 電柱に掛けたのに、いつの間にか俺の部屋に置いてあったり荷物の中に紛れ込んだりしていた。 可笑しい、曰く付きのものなのかもしれない。 こういう場合持って行くのは寺?神社?そもそも近くにどちらもない。 このブレスレットはいったい何なんだ?持ち主に返したいのに返せない。 今日は卒業式だから、そろそろ行かなくてはいけない。 ブレスレットをまた電柱に置いていこうと思い、とりあえずブレスレットを持っていき屋根裏部屋を出た。 卒業式だからか、今日は豪華な食事なのだと話し声が聞こえた。 俺はその豪華な食事は口に出来ないが、花蓮の嬉しそうな声が一階から響いた。 俺は階段を降りて、すぐに家を出た…目が合うとまた殴られるからだ。 学校の前には大きな信号があり、俺は信号の色が変わるのを待っていた。 学生やサラリーマンなど、いろんな人が使っている。 話し声が聞こえる中、小さな声だったが聞き覚えがある声がした。 そちらを見ると、あのブレスレットの持ち主が立っていた。 こんなところで会うとは思わなかったが、ブレスレットを帰すいい機会だと思った。 「あのっ!」 「やっぱりダメだ、ダメだダメだ」 またブツブツなにか言っていて、俺はカバンからブレスレットを取り出そうと手を入れた。 その瞬間、その人はユラユラと前に出たと思ったら急に駆け出した。 そして大型のトラックにより、その人は飲み込まれた。 周りから叫び声が聞こえてパニックになった。 地面には真っ赤な赤い液体が広がっていて、恐怖で固まった。 なんだ、なにが起きたんだ?まるで操られているような動きだった。 手にしていたブレスレットに目線を向けると、ブレスレットがいつの間にか俺の腕に嵌っていた。 隙間なくピッタリと嵌っているブレスレットを引っ張ったりして取ろうと思ったが、ビクともしない。 しかもブレスレットの色が黒く変わり、まるで手枷のように感じた。 視線を感じて、横を見るとクラスメイトの一人が俺を見ていた。 「お、お前…まさか…」 「えっ…」 「ひ、人殺し!!」 クラスメイトがそう叫ぶと、周りの人達も俺の方を見ていた。 人殺しってなんでそうなるんだ?俺は声を掛けただけで触れてはいない。 でもクラスメイトは俺が押したから死んだんだと叫んでいた。 少しすると、警察と救急車がやってきて…俺は事情聴取のため警察署に連れていかれた。 本当の事を話すと、とりあえず警察の人は信じてくれた。 身元引受け人に義父と義母がやってきて、何度も警察の人に謝っていた。 卒業式なのに、学校から卒業式には来ないでくれと言われた。 疑いが晴れても、警察署に連れてかれたのは真実だから嫌なのだろう。 そのまま家に帰ると、義父により腕を掴まれて、廊下を引きづられて連れていかれた。 物置部屋にやってきて、馬乗りになり頬を殴られた。 腕でガードすると腹を殴られて、顎を掴まれた。 「どれだけ恥をかかせれば気が済むんだ!!お前なんか遺産がなけりゃ引き取らなかった!!」 「うっ……ごほっ」 「あの変わり者の夫婦の子供なだけあるわ」 痛いが、声を出すともっと痛くなるから「やめてください」とも言えない。 物置部屋の入り口で、義母がタバコを吸ってこちらを見ている。 逃げようとして、ズルズルと腕を動かして這いつくばるが足を掴まれた。 引きづられて、また腹を撫でられて首を締められる。 俺を引き取った理由が善意ではない事は分かっていたが、遺産目当てだったのか。 両親が金持ちだったのか分からないが、俺は金に生かされていたんだ。 突き飛ばされて、ガラクタに頭を打つと血がポタポタと床にシミを作る。 「その傷が治るまで一歩も家から出るな!!」 義父はそう言うと義母と一緒に物置部屋から出ていった。 家から出るなって事は病院にも連れて行ってもらえなさそうだ。 頭がクラクラして、屋根裏部屋に戻る気力もなく横になった。 今度は本当に殺されると思った、あの人達ならやりかねない。 目蓋を閉じると、あの幸せな夢を見る事なく意識を失った。 …………… 中学を卒業して、俺は今日から高校生になる……状況は中学生の時より最悪だった。 卒業式のあの時から俺は人殺しとこの街で噂になっていた。 歩いているだけで、見ず知らずの人に噂話をされたり「この街から出ていけ!!」と石を投げられたりする。 今までは学校や家だけだったのに、これは精神的に来るものがある。 街で悪い意味で有名人になったから、この街ではアルバイトが出来ない。 ネットにも俺の噂が広まっていて、真実じゃないと訴えても噂を信じて聞いてくれない。 俺は本当に孤立してしまった、高校に行っても殺人者だと見られる目は変わらない。 花蓮もそう見られるかというと、全然そんな事はない。 元々花蓮は俺が拾われた子だと言っていたから、俺と花蓮は他人だと考える人がほとんどだ。 花蓮が怖いと言うと守ってくれる人がいる、だから花蓮に同情が集まり…中学生の頃以上に花蓮は人気者になっていた。 俺は殺人者で、花蓮は聖人なのだと誰かが言っていた。 新しい制服を来て、学校までの道を歩いていた。 相変わらず、周りから憎悪を向けられている。 チャラチャラと金属の音がして、腕を見るとあのブレスレットが嵌っていた。 あらゆる方法を試したが一度も外れる事はなかった。 それだけではなく、何故か人差し指の長さの鎖が出ていた。 これはなかったのに、何処から出ているのか不思議だった。 通り道にあるあの電柱に目を向けると、驚きで目を見開いた。 いる……このブレスレットの持ち主が、しゃがんでいた。 慌てて駆け寄って、俺はその人にブレスレットをしている腕を見せた。 「あの、これっ……って、あれ?」 電柱に近付いたら、そこには誰もいなかった。 ただの幻覚だったのかと、頭を押さえて床を見た。 そこにあったのは真っ赤に染まった手紙だった。 手紙を手に取ると、宛名が書かれていてさっきよりも驚いた。 その宛名の相手はありえないものだった。 家族にも誰にも久しく呼ばれていなかった俺の名前、何故道に落ちている手紙に俺の名前が書かれているんだろう。 俺宛の手紙を誰かに捨てられていたのか?それとも同姓同名? 同姓同名なら勝手に手紙を見るのは失礼だと頭では分かっている。 でも、たとえ同姓同名でも俺に送られた手紙のようで胸がドキドキした。 ちょっとだけ見て元の場所に戻せば大丈夫だよね……封はしていなくて手紙を開けると、二枚の紙が入っていた。 もしこれが本当に俺宛の手紙だったらいいのに、そう思って一枚目を開いた。 『(よみ)様へ 貴方はエトワール魔術学園にご招待致します』 そう一言だけ、書かれていた…何の事か分からない。 魔術ってなんだろう、身に覚えがないからやはり俺宛ではなかった。 落胆しながら、紙を戻そうと思いもう一枚ある事に気付いた。 それは紙ではなく、写真のようで俺のではないと確信しても気になってしまった。 それは何処かの建物のようで、今度こそ元の封筒に戻そうと思ったら紙の先が突然燃え始めた。 驚いて紙を離すと、弾けたように爆発して周りが煙で覆われた。 口元を手で覆い、煙が引くまでジッとしていた。 周りの状況が分からないから、下手に動かない方がいい。 それに、逃げたら放火魔とか噂されても嫌だ。 そして煙が引いた時、俺は自分の見ている光景に目を疑った。 俺は普通のいつもの道にいた筈だった、間違いない。 なのに、目の前には大きく古びた館があり…俺の知らない場所だった。 青空が見えていた朝だったのに、真っ白な満月が見えている暗闇の空。 木も木の葉が一枚もなく、枯れ木でカラスが何匹も止まっている。 不気味な感じがする、心が不安そうにざわめいている。 そして、この館はあの写真に写っている館そのものだった。 後ろを振り返っても何処から来たのか分からない。 早く行かないと入学式に遅れてしまう、時計がないから今が何時かも分からない。 スマホがあれば楽だったが、俺に与えられるわけがない。 誰かに道を聞こう、館の前に門番が二人立っていた。

ともだちにシェアしよう!