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第7話
ここなら誰もいないし…泣いてもいいよね。
一回だけ泣いて、枯れたらもう涙は出なくなる。
涙を流すと、止まらなくなり…声を押し殺しながら泣いた。
家に帰れない、殺される…俺はこれからどうすればいいのか分からない。
「可哀想に、そんなところでどうしたの?子猫ちゃん」
「…っえ?」
上から誰かの声がして、上を見上げると誰かが木の上に座っていた。
月光で顔が見えないが、あそこにいた人達とは違い…怖い感じはしなかった。
木の上から飛び降りてきて、ビックリして立ち上がった。
金色の髪が揺れていて、一瞬夢に出てきた人かと思ったが違った。
腰まで長い髪を一つにまとめている人は、とても綺麗な顔をしていた。
制服を気崩しているけど、あそこにいた人達と同じ服を着ている。
あの制服を見ると、怖い人達を思い出して後ろに一歩下がる。
「泣いてる…なにか悲しい事でもあった?」
「…お、おれ…何もやってなっ…」
初対面の人に言ってもしょうがないのは分かっているが、言わずに居られなかった。
俺の顔がムカつくとか、そういうのは仕方ない事だと思ってる。
…でも、やっていないのに濡れ衣を着せられるのは嫌だ。
きっと信じてくれない、分かっているが…そう言うと頭がちょっとだけ重くなった。
何をしているのか分からず上を見ると、頭を撫でられていた。
呆然と目の前の人を見ると、優しく微笑んでいた。
「君がやっていないならやっていないんだろうね」
「……信じて、くれるの?」
「こんな美しい涙を流す君が嘘を付くとは思えない」
親指で優しく涙を拭ってくれて「でも、君は笑顔の方が似合うよ」と言っていた。
…言っている事はよく分からないが、慰めてくれようとしているのだろう。
初めてだった、こんなに優しくしてくれた人は…まるであの幸せな夢みたいだ。
夢なのかもしれない、だからあんな魔法を使う人達がいたり俺に優しくする人がいるんだ。
頬を抓ってみると、ピリッとした痛みを感じた。
痛い……夢の中でも痛みって感じるんだったっけ。
「おい、そっち行ったか?」
「いや、行ってない…あっち探そうぜ」
声が聞こえて肩が震えて、目の前の人が俺を抱きしめて木に体を押し付けられた。
俺が苦しくないように気を使ってくれているみたいだが、至近距離で顔が近付いていた。
鼻が触れ合いそうな距離で、ジッと気配を押し殺す。
少しすると、遠ざかる足音が聞こえて…気が抜けた。
まだ追っていたのか、なんでそこまでするんだ?
「追われているの?」と聞かれたからなんて答えればいいのか分からない。
追われる事をしていないのに追われているなんて変な話だよな。
「今日は英雄と悪役の記念パーティーって聞いたけど」
「……」
「君……」
俺はその悪役とか誰も説明してくれなくて分かっていない。
だから何も言えなかったが、彼の言葉も途切れた。
どうかしたのかと思っていたら、なにかを見ているようだった。
俺も目線を下げるとそれはブレスレットだった。
さっき門番がこのブレスレットを見て顔色が変わった事を思い出した。
もしかして、この人も…
優しくしてくれたり、信じたいのに…恐怖が勝る。
考え事をしていたら「ちょっと来て」と言われて、腕を引かれた。
掴む腕は強くなかったから、振り払えばきっとすぐに手は離れてしまうだろう。
心ではまたなにかされるのかもしれないと不安だったが、俺の腕は振り払う気は起きなかった。
何故かは分からないが、優しい手を信じたい心もある。
そのまま着いていくと、窓も壁も透明だけど草が邪魔で中がよく見えない。
中に入ると、外から見えた通りでいろんな植物があった。
少し暖かい、温室なのだろう…入ったのは初めてだった。
周りを見ていたら、誰かを呼ぶ声が聞こえた。
「おいフレン!いるか!?」
フレンという人を探していて、温室の奥にも部屋があるのが見えた。
少年はそこに向かっているらしくて、もう一度声を掛けていた。
すると俺達ではない声が聞こえて、ビックリした。
この場所に来てからというもの、驚く事ばかりだな。
「うるさい」という声が聞こえてから何も声が聞こえなくなった。
少年はため息を吐いて、俺にここで待っているように言って奥の部屋に行った。
俺は何もする事がないから、草を眺めていた。
「お前、こんなところで寝てたのか?」
「何の用だ、パーティーには興味ないって言っただろ」
「俺も行っていない」
「じゃあ何だよ…暇潰しに来たって面白くもないぞ」
「そうじゃない、お前に会わせたい子がいる」
それほど待つ事はなく、すぐに少年が誰かを連れてきていた。
少年は助けてくれたから大丈夫だと思えるが、他の人は初対面だから分からない。
そして少年は「この子だ」と俺に行っていて、俺は見上げた。
少年と似たようだけど、こちらの方がちょっとクリーム色に近い髪だ。
ウルフヘアーで、体もちゃんと筋肉が付いているカッコイイ青年だ。
俺はこの人を知っている……どうして、なんでこの人が……
違う、だってあれは夢で俺が作り出した存在でしかない筈だ。
でも、きっと彼が大きくなったらこんな感じなんだろうな。
夢の彼が目の前の人にそっくりだったから俺は驚いた。
でも、なんで彼まで驚いた顔をして俺を見ているのだろうか。
「……は、初めまして…詠と言います」
「フレンだ、よろしくな…詠」
『詠!あっちに見せたいものがあるんだ!一緒に行こうぜ!』
夢の中の彼と、目の前のフレンさんの声が重なる。
腕を伸ばすと、触れられる…いつも見ていた夢とは違う。
頬に触れると、フレンさんも優しい顔をして笑っていた。
肩に少し重さを感じて、そちらを見ると少年が不満そうな顔をしてフレンさんを見ていた。
「知り合い?」と聞いていて、フレンさんは「いや…」と言っていた。
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