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①:2
三人に感謝を述べたボクは、すぐに首を横に振る。無論、三人の申し出を断るためだ。
「んーん、大丈夫っ。ボクのことは気にしないで、皆は先に帰ってて?」
「佐渡、一人で大丈夫か?」
──自分で頼んできたくせに、なにを言っているのか。
心配そうな顔でボクのことを見下ろしながら、先生が訊ねる。当然ながら、ボクはそれに対しても笑顔で応じた。
「大丈夫ですっ! だって、一人じゃないですからっ」
そう言って、教室の隅にある席まで歩き出す。
「真宵 君」
隅っこの席で黙々と自習をしていた、地味なクラスメイト。真宵麦 君に近寄って、ボクは声をかける。
「……なに」
真宵君は顔を上げて、冷めた視線をボクに向けた。
……真宵君は、模範的な生徒だ。
根っからのガリ勉で、運動が少しだけ苦手。絵に描いたような学力特化型。
そんな彼は、友達が少ない。いつも勉強をしていて、無表情で無口。周りからしてみたら、付き合い辛いのだ。
……でも、ボクはそんな真宵君が嫌いじゃなかった。
顔は整っているし、銀縁のメガネも似合っている。念のため補足するけど、メガネを外したところは何回か見たことがあるよ? けれど、裸眼でも全然カッコいい人なんだ。
ボクが男子校の姫なら、王子は間違いなく真宵君だろう。ボクにとって真宵君の容姿は、そう見えた。
少し不機嫌そうな真宵君の隣に立ち、ボクは笑みを向ける。
「良かったら、ボクと一緒に体育倉庫の掃除をしてもらえないかな~? なんてっ」
「なんで俺が」
「そこをなんとか! ……ねっ、お願いっ!」
両手をパンと合わせて、真宵君に向かって頭を下げてみた。
すると、先ほどまでデレデレしていたクラスメイトたちが近寄って来る。
「オイ、地味男。まさか、こころちゃんのお願いを拒否する気か?」
妙に威圧的だな。……とは、言わず。強気な三人に向かって、ボクは頬を膨らませる。
「ダメだよ、無理強いしたらっ」
そのやり取りを見て、真宵君が露骨な溜め息を吐いた。
「はぁっ。……別に、いいけど」
「ほんと?」
ボクは視線を三人から、真宵君に向ける。
真宵君は立ち上がって、ボクの横に並ぶ。
身長は百八十センチくらいあって、ボクと並ぶとまるで女の子と男の子みたいな身長差だ。親子と言っても、もしかしたら通じてしまうかもしれない。……なんて。真宵君はそんなに老け顔じゃないけど。
「おー、真宵もいるなら安心だな」
先生はそう言いながら、ボクに体育倉庫の鍵を渡してきた。
真宵君は同い年の人からは付き合い辛いと思われているけれど、教師からは真面目だからと信頼されている。
力もあるし、重い物なら真宵君が持ってくれるだろうと思ったのか、先生は満足そうだ。
「それじゃあ、行ってきま~す」
ボクはそんな挨拶をしてから、真宵君と一緒に体育倉庫へ向かった。
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