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 体育倉庫は、体育の授業を外でやるときに使う建物だ。  中には色々な用具が入っていて、面積は広いけれど、結構狭く感じる。  そんな体育倉庫は授業が無い放課後。まず、人が来ない。  オマケに鍵はボクが借りているこのひとつと、スペアキーがひとつだけ。しかも、スペアキーを持っているのは夜に学校の点検をする警備のオジサンだけだ。  つまり、今ここでボクが内側から鍵を閉めたら? そう、答えは簡単だよねっ?  ──夜まで誰もここに来ないだろうし、誰も入ってこられない。 「真宵君。……やっと、二人きりになれたね……っ?」  体育倉庫に真宵君と入り、ボクは内側の鍵を閉める。振り返ると、端正な顔立ちをした真宵君が、眉をひそめていた。  ボクは倉庫内にある椅子に座り、立っている真宵君を見上げる。  ──そして、自慢の愛らしい笑顔を浮かべてみせた。 「──なんでボクを見下ろしてるの?」  その言葉に。  ──真宵君は瞬時に、跪いてみせた。 「申し訳ありません!」 「って言うか、教室での態度もなに? 照れ隠しにしても、失礼すぎじゃない?」 「申し訳ございませんでした!」  頭を垂れて。土足で使われているから土で汚れている床に、真宵君は制服のズボンが汚れるのも気にせず、膝を付けた。  ボクは靴の先で、真宵君の顎を持ち上げる。 「……あれ? なに、その顔」  真宵君の顔をボクの方に向かせてみた。  ボクを見上げる真宵君の表情を見て、ボクは──。 「──ぷっ、くくっ! あっははっ!」  ──思わず、笑ってしまった。  真宵君は、目尻をだらしなく下げ。唇を、だらしなく半開きにしながら。  ……恍惚とした表情で、ボクを見ているのだ。 「だらしな~い。キモ~イ」  そう言い、ボクは真宵君の綺麗な首を蹴り飛ばした。 「ゲホッ!」  突然の痛みに、真宵君が苦しそうに咳込む。  ……そう。これこそが、ボクの本当の姿だ。  天使? 姫? 男の理想? なにそれ。なんて、なんてくだらない評価だろう。  そもそも『こころちゃん』という呼称も、反吐が出る。  体育倉庫の片付け? そんなもの、テメェでやれ、ドカス。  そもそも、あんなブ男たちがボクに馴れ馴れしく近付いてくること自体が、不愉快なんだよ。お門違いとは、まさにこのことだ。お里が知れる。親の顔が見てみたいものだ。  ボクはボクが認めた人にしか、関わりたくないし触れたくない。  ……例えば、そうだな。  ──今ボクの目の前にいる、高貴で高潔な、真宵君みたいな人とか。  キレイで美しくて、触れたら壊れてしまいそうなほど脆そうで、足跡ひとつない新雪のようなこの人になら、触れたいって思える。  ……壊れてしまいそうなのに、触れたいのかって? むしろ、そんな印象だから触れたいんだよ。  ──このキレイな人を、グチャグチャにぶっ壊すのが楽しいんだからっ。 「痛かった? ごめんね、大丈夫?」  椅子に座ったまま、むせている真宵君を見下ろす。  真宵君はすぐに姿勢を正して、ボクを見上げた。 「いえ、大丈夫です!」 「本当に? 喉とか、ケガしてない?」 「大丈夫です!」 「でも、心配だよ……っ」  ボクは悲しげに眉をひそめて、立ち上がる。  跪く真宵君の目の前に立つと、ボクはズボンのベルトを外した。 「──ボク自身で確認してあげる」  チャックを下ろし、萎えているブツを取り出して。  ──真宵君の口元に、押しつけた。

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