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 衝撃の──文字通りの【告白】から、数時間経ち。放課後になった今、現在。  俺は教室の隅にある自分の席で、帰り支度を始めていた。  ……まさか、友達のいない俺が告白をされるなど。しかも、相手は同性だ。あんなイベントが起こるなどと、誰が想像できただろうか。 『正直、顔とか姿勢とか、外見がすっげー好みなんだよ!』  なぜだか妙にふわっとした理由での告白。驚きはしたが、ドキドキといった甘酸っぱい衝動は、起こらなかった。 『──無理だ』  俺からの返事は、それだけ。必要最低限の返事をしてから、俺は急いで教室に戻った。  ……が、佐渡様の周りにはいつもの取り巻きが揃っていて。つまり、佐渡様は俺で遊んでくださらなかった。  それもこれも、全部あのウジ虫のせいだ。  この世に人は、佐渡様のみ。残りは皆、対等に人間未満の生物だ。  家畜である俺の昼休みに大した価値は無いが、価値の生まれた瞬間に邪魔をされたとなっては、腹も立つ。  ──嗚呼。俺はただ、佐渡様のお馬さんになりたかっただけだと言うのに!  鞄の中に教科書をしまい込み、俺は立ち上がる。窓の外では、まだ雨が降っているようだ。  帰ろうと立ち上がった時。……不意に背後から、名前を呼ばれた。 「──真宵君っ!」  その声は。……間違えもしない、我が主の声だ。  元気よく返事をしてしまいそうになるのをグッと堪えて、無表情のまま振り返る。 「なに」 「真宵君、傘持ってる?」 「傘?」  登校時間は晴れていたが、今日の降水確率は八十パーセントだと、朝のニュースで言っていた。  一応傘を持って通学はしたし、なんだったら折り畳み傘をいつも鞄に常備している。 「持っているが」 「ホント?」  佐渡様は両手をポンと軽く合わせて、俺を見上げた。 「借りてもいいかな? ボク、雨が降るだなんて思ってなくて……っ」  ──降水確率などという目に見えない情報には左右されない生き様なのですね! 大変素晴らしいです! 感服いたしました!  とは勿論口に出さず、申し訳無さそうに俺を見上げている佐渡様に向けて、俺は頷く。 「良かった~! ……じゃあ、ついでだから途中まで一緒に帰ろう?」  生まれて初めて、傘という存在に土下座したくなった。  昼休みの戯れは強制終了してしまったが、挽回のチャンスだ。  学校の外に出たら、知り合いも減る。過度な要求には応えられないが、昼休みのような素っ気無い演技に徹する必要がない。  俺はもう一度頷いて、ニコニコと愛らしく微笑む佐渡様と共に、教室から出た。

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