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 雨の中、校門をくぐり抜けてから数分経ち。  ──周りに知り合いがいなくなった途端、佐渡様の表情が変わった。  周りに知り合いがいるときは、いつもと変わらない愛らしい天使のような笑みを向けてくださっていたのだが。なのに突然、ゴキブリを見るような目で俺を見上げてくださったのだ。 「──で? 返事はなんて?」  鈴を転がしたような愛くるしい声色から、一変。愛想もなにもない侮蔑を込めたような声で、佐渡様が俺に訊ねる。 「返事、とは?」 「身に覚えがあるくせに、わざわざボクを煩わせるわけ?」 「申し訳ありませんッ!」  ──あぁっ、その目ッ! 堪りませんッ!  などと、感慨に耽っている場合ではない。主の問いにはきちんと答えなくては。  それにしても『返事』とは。身に、覚え……?  佐渡様の言葉を頭の中で繰り返してみると、やっと意味が分かった。  恐らく佐渡様が気にしていらっしゃるのは、昼休みの件だろう。どうして佐渡様があのことを知っているのかは、分からないが。 「お断りしました」 「なんで」 「交流した覚えも無ければ、名前も知らないからです」 「じゃあ、交流して名前を知ってたら付き合ったんだ」  佐渡様は俺を嬲るとき、挑発的でいながら楽しそうだ。……だというのに、今の佐渡様は楽しそうには見えない。  機嫌が悪そうだし、痛いくらいの嫌悪を感じる。  まさか、俺がお散歩を保留にしてしまったからか? どこの誰とも分からない男に、邪魔をされたから。だから、佐渡様は不機嫌なのだろうか。  俺は慌てて、佐渡様の言葉を否定する。 「だとしても、断ったと思います」 「ふ~ん」  疑うような目で、佐渡様は俺を見上げているままだ。  俺が、誰かと付き合うだなんて有り得ない。なぜなら、俺が慕っているのは……っ。  俺は、佐渡様を慕っている。それは【崇拝】とか【服従】とか、それだけの感情ではない。  ──俺は、佐渡様を愛しているのだ。  家畜風情がなにをと、思われるかもしれない。  そもそも、佐渡様が俺のことをそんな目で見ているわけがないと。そんなこと、初めから分かっている。  それでも俺は佐渡様を愛しているし、許されるのなら俺を、佐渡様の所有物にしてほしい。  ……いや、所有物である自覚はあるが。そうじゃなくて、だ。

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