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第4話《4》
『ルーク』
「……ライアン、さん?」
ふとライアンさんの声が聞こえた気がした。
涙を拭いながら音を拾うために耳に神経を集中させる。
うさぎ獣人は聴力が優れている。
ドアが開く音がした。
下のテラスのドア?
階段を登る足音は人の物ではない。
急いでいるようで何段か飛ばしながら登っている。
そして隣の部屋のドアが開いた。
『……全く、護衛はどうしたのですか? 気持ちはわからなくはないのですが、ご自分の立場を……』
『整備されている道を車で戻るより獣体で山を突っ切った方が断然早い。着いてこられた者は着いてきただろうが、生憎そっちに合わせる時間も勿体なかったからか。後のことはレオが引き受けてくれたし、アイザックに至っては会談が終わると同時に今日中に帰れと部屋からつまみ出された』
『お兄様想いの王弟夫妻 ですね』
エリオットさんとの会話が聞こえて慌ててベッドから降りて隣の部屋に急ぐ。
『そんなことよりもルーの調子は……』
「あっ……」
ライアンさんのシャツを着ていたことを忘れていて裾を踏んでしまい床に顔をぶつけた。
服、早く返さなきゃ……
「ルーク!? どうした!? 転んだのか!?」
「ライアン、さん……」
寝室のドアが開き床に転んでいる僕を抱き上げてくれたのは会いたくて会いたくてたまらなかったライアンさん。
眉間に皺を寄せ僕の頬を触りながら身体を確認される。
「怪我は、なさそうだが……どこか痛いか? ……ん? 寒かったか? 俺のシャツを着て」
「あぅ……ごめん、なさい……」
「責めているわけじゃない。具合は悪くないか?」
握った耳をやんわりと離して撫でてくれる。
心配させないように首を横に振った。
「熱は、下がりました。日中寝てたから、なかなか眠れなく……て……でも……あの……」
ライアンさんに呆れられるのが怖くて上手く言葉がでてこない。
それでも急かさずに背中を撫でながら待ってくれる。
「……ライアンさんが、いないと……寂しくて……ライアンさんの香りがするシャツ着たらライアンさんに抱きしめてもらってる気になるかなと思って……でも……余計に寂しくて……会いたくなっちゃって……ちゃんとお留守番してるって、言ったのに……」
「ルー……」
「……やくそく、まもれなくて……ごめんなさい……」
自分が情けなくて。
呆れられるのが怖くて。
顔を見ることが出来なくて俯いたまま泣くことしか出来なかった僕の身体をライアンさんは抱き寄せ逞しい胸元に顔を埋めさせてくれた。
「泣かなくていい。ルーが謝ることは何もない。」
違う……だって……迷惑ばかりかけるだけで、何もできない。
優しい言葉をかけてくれるけど全然そんなことなくて首を横に振る。
「俺がルーがいないのが寂しくて急いで帰ってきたんだ。部屋を用意した時に言っただろ? 寂しいから一緒にいてくれと」
「ん……でも、ライアンさんなら我慢できるのかな、って思ってた……」
「まさか。本当なら仕事も行かずにずっとルーを抱っこしていたいがエリオットにこき使われているんだぞ。王様の俺をこき使うのはエリオットくらいだ」
「ふふふ……」
頬に手を当て顔をあげるように促されライアンさんを見上げると優しく涙を拭ってくれた。
優しいライアンさんの気持ちが嬉しくて自分からぎゅっと抱きつく。
「少し何か食べれるか? 美味しそうな桃持ってきた」
「はい」
不思議とライアンさんに会えて安心したからかお腹もすいてきた気がする。
今日ほとんど食べてなかったけれどさっきまではなんともなかったのに。
「……ライアンさん、おかえりなさい」
「ただいま、ルーク」
教えてもらった挨拶を交わし、ライアンさん自ら切ってくれた桃を食べさせてもらい安心してまた眠りについた。
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