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03※

 とは言ったもののだ。 「っ、は、ぁ……ッ」  我ながらとんでもない状況になっているという自覚はあった。あったけど、それ以上に熱とアルコールで頭がふわふわして深刻に捉えることはできなかった。  ノクシャスの膝の間に腰を降ろし、俺はその目の前の膨らみを見詰めた。ゴツゴツしたノクシャスの指がベルトと前を寛げた瞬間、勢いよく飛び出してきた性器が頬に当たる。「わっ」と驚いて声を上げれば、ノクシャスが愉快そうに笑った。 「っ、す、ご……ッ」  思わず声に出てしまった。なにを食ったらここまででかくなるのかとも思ったが。元々大柄なノクシャスの性器だ。その体格に劣らずバキバキに筋を浮かべて勃起した性器はあまりにも俺の股間についているものとかけ離れており、目を逸らすことができなかった。熱もすごい、硬さもだ。鼻の穴に広がる雄の匂いに更に頭の奥が痺れていくようだった。  ノクシャスは顔もかっこいいし、きっとこれで何人もの女の人を相手にしてきたのだろう。それでも子供の腕ほどあるのではないかと思えるほど、ノクシャスのそれは太さ長さともに挿入するにはあまりにも凶器に等しく思えた。  正面から裏筋、じっくりと眺めていると吐息に反応したのかぴくぴくとノクシャスの性器が脈打つ。 「おい、良平近すぎないか? お前そのまましゃぶる気かよ」 「っ、へ、あ、いやその……ッ」 「……なあ、せっかくだししゃぶってみるか?」  ノクシャスの手が頬に触れる。そのまま拳ほどある亀頭を唇に押し付けられた瞬間、より生々しい匂いと熱に全身が震えた。  ちゅぷ、と尿道口から垂れる先走りが唇へと触れ、粘着質な音を立てる。  ノクシャスも酔ってるのだろう。ならば、お互いに気持ちがいいうちに穏便に済ませるのが最善ではないのか。いやそもそも最善ってなんだ。なんで俺は唇にちんこ押し付けられてるのか。 「じゃ……じゃあ、少しだけ……」  処世術。  男同士触り合いくらいするし、勃起したらしゃぶらせたりもする。……かもしれない。  ノクシャスに言われるがまま口を開き、亀頭にちろりと舌を伸ばす。最初からこれを口の中へ入れることは無理だと分かっていた。顎が外れる。  だからちろちろと亀頭やカリのところ、竿へと拙い動きで舐めるのが精一杯だった。  不思議と嫌悪感はなかった。舌の上でびくびくと跳ねるのが別の生き物みたいに思えて、更に大きくなるそれに畏怖すらも覚える。 「……っ、お前、本当舌ちっせえのな」 「っ、ん、ぅ……ら、っへ……ノクシャスさんのが、大きくて……っん、ぅ゛……ッ」  なるべく音を立てないようにするものの、唾液 と先端から滴る先走りが混ざる度にじゅぶ、と口の中で泡立つ。美味しい、と思うことはないが、それでもその独特の味が濃くなるほどノクシャスが気持ちよくなってくれてるのだと思えて嬉しかった。  無我夢中でノクシャスに奉仕する。自然と四つん這いになるような格好になってしまい、それでもノクシャスの内股に手を置き、顔の角度を変えて舌を突き出して側面をなめるのだ。  ノクシャスはワイングラスを手に、そんな俺を肴に飯を食べていた。 「……おい、良平お前こういうことしたことあんのか?」 「え? ……あ、あるわけ……ないです、初めてです……そんなこと」 「……まじか、お前……っすげえな」  呆れたような、愉快そうな、そんな声だった。頭をくしゃりと撫でられると嬉しくなってしまう。  昔からあまり人にこうして褒められることがなかったから――いや、あった。あったが、それも随分と昔の記憶だ。もっとノクシャスに褒めてもらい。 「おい……裏側もちゃんと舐めろ。玉の方までねっとり唾液絡めるんだよ」 「っ、ふぁい……っ」  ノクシャスに言われるがまま、竿を掴む。片手では指が回らないほどの太いそれを掴んだまま、俺は口の中の唾液を絡めた舌で裏側の太い一本の筋に根本から亀頭めがけてれろぉっと舌を這わせた。ノクシャスが僅かに息を漏らす。  ノクシャスはここを舐められるのが好きなのだろうか。俺は今度は唇で吸い付き、そのままちろちろと舌を這わせた。 「っん、ふ……ぅ……ッ」 「……っは、良平……お前、上手いな」 「ん……ッ、ぁ、ありぁとう……ございまふ……ッ」  突き出したままになっていた尻撫でられ、そのまま尻の肉をぐにっと掴まれると下腹部の奥が疼いた。集中しろ、俺。そう必死に目の前の男性器にしがみつきながら俺は忙しなく舌を動かした。 「っ、ん」 「あー……っ、くそ、挿れてぇな」  「っ、ぅ、んぶ、ふ……ーッ」  いたずらにスラックスの中に手を突っ込んできたノクシャスは下着の上から尻の谷間の奥、肛門をすりすりと撫でてくる。こんなものを挿れられてみろ、流石に俺の体も壊れてしまう。けれど、そんな想像をしてより熱くなる自分の下腹部になにも考えられなかった。  ノクシャスに尻を揉まれながらも、俺は唾液と先走りで赤黒く濡れた性器を両手で握る。手が汚れようが、もうどうだってよかった。亀頭をぱくりと咥え、舌で尿道口に残った先走りを啜りながらノクシャスの性器を刺激した。 「っ、ああ、そうだ……良平、喉も使えよ」 「っふ、ッ、ぅ゛ん゛んッ」  言われるがまま、頭を動かし、限界までノクシャスの性器を咥えようとするがやはり亀頭の半分が限界だった。それでもノクシャスを満足させられるように、言われるがまま舌を絡ませながら喉を締め付けて愛撫する。  手の中の性器がどくんどくんと脈打つのを聞きながら、俺は更に追い打ちをかけた。 「……ッ、く、……ッ!!」  唇を窄め、思いっきり吸い上げたときだった。口の中でそれは大きく跳ねる。瞬間、あまりの勢いについ口から性器が外れた。  あっと、思った次の瞬間、どろりとした大量の液体が顔面に降り注ぐのだ。 「っ、は、ぁ……ッ」  熱い。つか、この匂い。顔射されたのだとわかり、恐る恐る顔を汚す精子に触れる。濃い白濁のそれはどろりと頬から顎まで、落ちていく。  そんな俺の顔を見て「悪ィな」とノクシャスは無骨な指先で拭った。そして。 「……良平、お前、素質あんぞ」 「……ぁ、ありがとう……ございます……」  わしわしと撫でられる。けど、まだノクシャスの性器は上を向いたままだ。  こんなに出したのに、まだ出るのか……?  ちらりと視線を向け、息を飲んだときだった。 「……何してんの?」  テーブルの横、いつの間にかそこには黒ずくめの仮面の男が立っていた。――ナハトだ。 「っ、げ、ナハト……っ! お前、暫く任務で帰ってこねえって話じゃ……」 「別に、早く仕事が済んだだけ。……それよりも俺が居ることにも気付かず夢中になるほどってよっぽどだね、ノクシャス。……だからお前、禁酒令出されてたんだよ」 「はあ……クソ萎えた」  顔色一つ変えるわけでもなく、いつものことかという調子で続けるナハトにノクシャスも恥じるわけではなく寧ろどうどうとそんなことを言う。すごい、本当に一瞬にして萎えてる。  もぐもぐと残っていたピザを食べていたナハトだったが、そのまま布巾で手を拭うとじろりとこちらを向いた。仮面越しでも分かる、絶対零度の視線だ。 「な、ナハトさんこれは……っ」 「イカ臭い口で喋らないで。……お前はこっち」  そう首根っこを掴まれ、ナハトに引きずられてやってきたのは洗面台だ。  洗面台の前。頭をいきなり押さえつけられたと思えば、いきなり蛇口から溢れ出す水に溺れる。 「あ、あの……ッぉぶっ!」  そして、問答無用で顔の精液を洗い流される。そのまま口をこじ開けられたかと思えば、ナハトは容赦なく咥内へと指をねじ込み、口の中も直接洗い流そうとしてくるのだ。 「ぉごっ! ぼご……っ!」 「お前、男相手だったら見境ないんだ? ……よりによってあんな筋肉ダルマのチンポしゃぶって喜んでるなんて、本当恥ずかしくないの?」 「っ、ぅ、ご……っ、ごぼ……ッ!」 「……はあ」  鼻や器官に水が入らないようにしてくれているようだが、溺れないように必死になっていたお陰でナハトの言葉は聞き取れなかった。それでも、恐らく罵倒されていたのだかはわかった。  そしてようやく洗い流し終えたとき、前髪や着ていたシャツまでもびしょびしょになっていた。  ぜえぜえと虫の息の俺の顔にタオルを押し付け、そのままがしがしと拭いてくるのだ。 「っ、もご!」 「……本当、無防備過ぎて腹立つ」  そう舌打ちし、ナハトは俺からタオルを外した。そしてそのまま俺の頭に被せるのだ。髪を拭けということなのか。 「っは、……ぅ、ナハトさ……っ」 「……ノクシャス、あいつは脳味噌筋肉馬鹿のお人好しだけど、今度から二人きりで酒飲むなよ。……酔ってるときのアイツ、下半身まで馬鹿になるから」 「っは、ひ……」 「……はあ、本当……面倒臭……」  そう吐き捨て、背中を丸めたまま部屋へと戻ろうとしていたナハトを咄嗟に呼び止める。ナハトさん、と情けなく声が上擦ってしまったが、ナハトの耳にはしっかり届いていたようだ。 「なに」 「ぁ、ありがとう……ございました……」 「……煩い」  なんだか俺、ナハトには怒られてばかりだ。  というか当たり前だ、冷水浴びたおかげで段々酔が醒めてきたが普通に考えてあんな場面をナハトに見られたのだ。前回に引き続き、やつにとって俺は変態かなにかと思われてるに違いない。  暫く恥ずかしさのあまりどんな顔をしてナハトやノクシャスの元に戻ればいいのか分からず蹲ってることとなる。  そして数分後。  部屋に戻ると料理や酒は片付けられたあとだった。そしてノクシャスも帰ったらしい。  いつもと変わらない簡素の部屋の中、ソファーの上には我が物顔で座るナハトがいた。  やばい、こうして一対一になると緊張してしまう。またチクチク言われないだろうか。タオルを両端を掴み、深くかぶって顔を隠そうとしてると「なにやってんの」と冷ややかな声が飛んでくる。 「う……そ、その……色々ご迷惑をおかけしました……」 「もうそれ飽きた。……それより、こっち来て」  そう、自分の隣をばしばしと叩くナハト。  人に近付かれることを嫌いそうな気配すらあるのに、思いの外距離の近いナハトに色々思い出してきてまた別の緊張してくる。もたもたしてると「早く」と促され、俺は慌ててソファに座った。そして。 「……これ、お土産」  そう、ナハトが紙袋を取り出した。俺でも見たことある、地上にある電化製品店の袋だ。中を覗けばそこには新品の携帯ゲーム機が箱ごと入っていた。 「あの、これって……ナハトさんがいつもしてる……」 「退屈しのぎ。……他の男のチンポしゃぶる暇あるなら少しでも鍛えなよ。……そうすれば、俺も少しくらい退屈しのぎになるだろうから」 「あ、ありがとうございます……っ!」 「……声でか」 「あっ、ご、ごめんなさ……」  慌てて口を抑えれば、ぷいっと他所を向いたナハトは深く溜め息を吐く。またなにか言われる、そう身構えていたのだが。 「…………まあ、別にいいけど」  そう、辛うじて聞こえてくるほどの声量で呟くナハトに胸の奥に暖かいものが溢れ出す。  けど、またありがとうございますなんて言ったら詰られるだろう。俺は喜びを胸に押し込め、紙袋を抱き抱えた。  ヴィランは悪人だと思っていたのに、段々常識というものが分からなくなってくる。  やっぱり、悪い人ではないのかもしれない……。  そんなふうに思ってしまう俺も、既に染まっているということなのだろうか。

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