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CASE.03『興味対象』

 あれから、ナハトに貰ったお土産のゲーム機で遊ぶことが多くなった。  部屋にいるときも退屈せずに済むようになったのは喜ばしいのだけれども……。 「……善家、まだその面クリアしてないの? ストーリーモード全クリしてくれないと俺の相手にもならないんだけど」 「……う、だってこれめちゃくちゃ難易度高いですよ……?!」 「お前が雑魚なだけだろ。……ざーこ」 「う、うう……」  ナハトはというとずっとこの調子だ。  ナハトのお気に入りのゲームをやってるのだけど、度々ナハトは俺のゲーム画面を見てやれ早く強くなれだとか下手くそだの呟いてくるのだ。  そんな午後を過ごしていたとき、部屋のインターホンが鳴り響く。そして扉が開いた。現れたのは白衣をだらしなく羽織った軽薄な男だ。 「やほー、二人ともまたごろごろしてんのー?」 「あ、も、モルグさん……っ!」  白衣の男――モルグは、ソファーでゲーム機にかじりついてた俺たちを見て「やあ」と微笑んだ。現れたモルグにナハトは露骨に溜め息を吐き、そして俺の上から退いてくれる。 「……なんの用?」 「ナハト〜、ボスから呼び出し。んで僕が代わりに来たんだよ」 「ああ、そ。……分かった」  いつもは面倒臭がりなのに、ボスからの指令となるとすぐに動くナハト。余程ボスのことが大好きなのだろう。肘置きにされ、重いから退いてくださいと潰れかけてた俺の声には耳も傾けなかったのに。  そのまま部屋から出ていくナハトと入れ違うようにモルグは俺の前までやってくる。 「さてと、僕たちも行こっか」 「え?」 「たまには君も運動しないと。付属のトレーニングジムあるから行こうか」  まさかモルグの方からそんな提案をしてくれるとは思ってもいなかった。 「い、良いんですか? 俺が使っても」 「誰も文句言わないよ。それに、これはノクシャスからの頼みでもあるからねえ」 「ノクシャスさんから?」 「そーそー、君が鍛えたがってたから指導してやれって」 「あいつ、結構君のこと気に入ってるみたいだったけど僕が知らないうちにいつの間にかに仲良くなったのかな?」そう不思議そうに顎を擦るモルグ。先日のノクシャスとの出来事を思い出し、顔にじわじわと熱が集まっていく。  あれからまだノクシャスとは会っていないが、次会うときはどんな顔をして会えばいいのだろうか。  でも、あのとき話してたことをちゃんとモルグに伝えてくれてたのは素直に嬉しい。  というわけで、俺はモルグとともに自室を後にする。社員寮エリアを抜ければロビーへと出る。様々な階へと行き交う箱型のエレベーターに乗込めば、モルグは共有エリアへと向かう。  基本この社内で全てが事足りるようになっているらしい。社員たちの憩いの場である娯楽エリアや食事スペース等、生活に必要なものはもちろんありとあらゆる要望に答えるべくこのタワーの中はたくさんの設備が整っていた。  ……モルグが説明してくれたが、あまりにもその量が膨大すぎて右から左と抜けていってしまったけれども。  ――トレーニングエリア。  戦闘シミュレーションや武器の手入れなど、ヴィランたちには必須の設備が整うエリアは足を踏み入れた瞬間むわっとした熱気と油と金属の匂いが充満していた。 「わあ……っ!」 「うっわ、相変わらずむさ苦しいなあ」  受付を済ませ、まず目の前に広がる巨大なジムに思わず感嘆の声が漏れる。  地上ではトップヒーローくらいしか入れないのではないかと思うほどの上等のトレーニング器具や設備が揃っていた。  流石、ヴィランたちを統べるトップ企業というわけか。たくさんのヴィランたちがストイックに鍛錬に打ち込んでる姿を見て、思わず目を奪われていたときだ。 「おいテメェコラモルグ! なんのようだ!」  チンピラ風の厳つい青年が噛み付いてくる。いきなりの大声に驚いて思わずモルグに隠れてしまいそうになるが、モルグはというと驚くわけでもなく「よしよしびっくりしたね」と俺の頭をなでてくれた。そしてそのまま目の前のヴィランに視線を流す。 「あー大丈夫、試験体探しに来たわけじゃないから。今日の僕はオフ、彼の付き添いだよ」 「ああ?! 付き添いだと?!」  そうこちらをぎろりと睨むヴィラン。その物理的な圧と声と眼力に怯みそうになりながらもぐっと堪え、俺はモルグの後ろから出た。 「あっ、あ、あの……っ、お邪魔します……ッ!」 「って……なんだ、ノクシャスさんの子分か」 「こ……ッ?!」  急にヴィランの態度が軟化したと思いきや、いつの間にそんなことになってたんだ……?!  否定するよりも先に、すかさずモルグは俺の肩を抱き「ま、そういうことだから優しくしてあげてね」と笑う。 「まあノクシャスさんの子分なら自由に使えよ」とだけ言い残し、チンピラヴィランはそのままジムから出ていった。 「モルグさん……」 「まあまあ、君の存在はちょっと特殊だから『そういうこと』にしてた方がやりやすいと思うよ? ……それに、この辺のやつらはノクシャスには頭上がらないやつ多いし」 「な、なるほど……?」 「そういうこと」  なんだか強引に納得させられた気もしないではないが……まあいいや。 「じゃあ取り敢えず君がどれくらいできるか基礎体力見させてもらっていいかな。ああ、勿論準備運動も忘れないでね」というモルグの言葉により、一旦俺は更衣室で貸し出しされてるトレーニングウェアに着替えることになった。  そして念入りな準備運動後、早速体力測定へと移った。

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