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 地下帝国の更に地下、モルグはエレベーターの基盤を操作する。そしてやってきたのはモルグの研究室――の一部らしい。  その部屋にはたくさんのヴィラン用のスーツの試作品が並べられていた。ニュースで見かけるような有名ヴィランのスーツも中にはある。 「ここは……?」 「主に新作スーツの試作品を置く場所だよ」 「これもモルグさんが作ってるんですか?」 「研究者は常に人手不足だからねえ。……そうだ、着てみる?」 「いいんですか?」 「いいよぉ。……うーん、でも危なくなさそうで君でも着れそうなのってなると……これかな?」  そう、いくつかのスーツを取り出してきたモルグにぎょっとする。  布面積が極端に少ないものだ、最早局部から下半身を覆ってるだけで上半身は剥き出しだ。 「こ、これは……ちょっと俺にはワイルドすぎるというか……」 「ええ? こういうのは露出がなんぼだよ。より魅力的なコスチュームが観衆の目を惹きつけやすくなる。となるとやっぱ露出は大事だからねえ。大丈夫、ちゃんと露出してるように見えてる部分にも特殊な防御膜が張られてるからこのコアの部分が破壊されない限り敗れることもないし……」  また始まった、モルグさんの思考がどんどん俺より遠くへと離れていってる。これはまずいと俺は強引に話題を変えた。 「あ、で、でも……ナハトさんとかは露出しないですよね、寧ろ肌見えてる部分が少ないというか……」  そう尋ねれば、「あーそれはね」とモルグの意識がこちらへと戻ってきた。 「あいつは人前に出るタイプの仕事はしないからねえ」 「あ、そういうことだったんですね……」 「ま、本人が嫌がったってのもあるけど。……逆に、ノクシャスのスーツみたことある? あれデザインしたの僕なんだけど、とにかく鮫っぽくてかっこいいのがいい! ってダダ捏ねられてさ、なんだよ鮫ってって思いながら頑張って考えたんだけど……」 「え? ノクシャスさんのスーツもモルグさんが……?! た、確かに鮫っぽいなとは思いました……っ!」 「あ、本当に? 良かった〜実際の鮫に噛まれに行った甲斐があったよ」  さらっととんでもないことを言うモルグ。  ヴィランのことを懲らしめなければならない存在だと思っていた頃の自分でもノクシャスの戦闘は良く印象に残ってた。ノクシャスだけではない、他のヴィランたちもだ。 「……あまり人には言えなかったんですけど、皆さん個性的ですよね。俺、よく好きなコスチュームランキングとか見てたんですが女性の方のヴィランはやっぱり軒並み……ノクシャスさんみたいな方が多かったですね」 「あはは、でしょ? ショービジネスも兼ねてるんだよ。顔を売れば売るほど指名付きの依頼も増えやすくなる。それに、地上でもヴィランを追っかけるやつは一定数いるんだよ。そういうやつらが地下に降りてきたり、協力者になってくれるんだ。そうやってスポンサーや人脈も増やしていく」 「そう、なんですね……」 「いくつになっても強くてかっこいいものが好きなんだ、男の子は。だからヒーローもヴィランもいなくならないんだよ」  モルグの言葉を聞いて、なんだか不思議な感覚だった。  ずっと、ヒーローに憧れていた。テレビの中で活躍する彼らを見てかっこいいと思ったからだ。  ヒーローに守られる立場でありながらもヴィランを支持する人間は一定数存在した。彼らは信念やその個性等、様々な理由を述べていたが結局俺と同じなのだと思うと腑に落ちた。  ただ、その対象が違っただけなのだ。  そんなことを考えていると、「ところで女ヴィランイメージの男性サイズ衣装もあるんだけどどう?」と、にゅっとどこからか持ち出してきたビキニタイプのスーツを掲げるモルグ。 「そ、それは際どすぎますよ……!」  人が物思いに耽ってるところを見事吹き飛ばされてしまう。  それからモルグの仕事に協力するという体でモルグの研究室の片付けをしたり、今度の研究の準備だけしておくというモルグをやや離れたところから見守ったりするなどをして一緒に過ごした。  ノクシャスやナハトとはまた違う時間を過ごし、そして準備を終え「そろそろ帰ろうか」というモルグに部屋まで送ってもらうこととなった。  なんだか今日一日で大分モルグのこと分かった気がする。それ以上に不思議なところも出てきたが、モルグも元々地上にいて俺と同じようにヒーローが身近な存在だったと思うとなんだか親近感が湧いた。 「今日は色々ご案内していただいてありがとうございました」 「いーよ。それに、ナハトといるとずっと引きこもってばっかだろうからたまには気分転換もしなくちゃ」  ――社員寮、自室前。  そう、モルグと別れの挨拶をして部屋へと戻ろうとしたときだった。主に脹脛から腿にかけて筋に痺れるような痛みが走る。 「いえ……っ痛」 「筋肉痛?」 「……すみません、ちょっと久しぶりに張り切りすぎてしまったみたいで……」  大丈夫?と体を支えてくれるモルグにそう答えれば「なるほどね」と徐に痛んだ腿から脹脛を撫でられぎょっとする。びっくりして崩れ落ちそうになれば、「おっと」と軽々とモルグは俺の体を抱きかかえるのだ。 「モルグさん……っ?」 「ああごめんごめん。けど、ただの筋肉痛みたいだね。……じゃあ服脱いで?」 「え?」 「マッサージしてあげるから」 「良かったねえ、ここにいたのがノクシャスでもナハトでもなくて僕で」そう、俺をベッドへとそっと寝かしたモルグはこちらを覗き込んで微笑むのだ。  今はその笑顔がなんだか怖くて堪らなかった。

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