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04

 マッサージをしてあげる。  そう、モルグからの申し出を受けることになったのだけれども。別にそれについては問題ない、寧ろそこまでしてもらえるなんてと感謝の念すら覚えるくらいだ。  けれど、けれどもだ。 「……っ、あの、本当に……このままで……」 「勿論。服は邪魔でしょ? ……ああ、別にそんな恥ずかしがらなくてもいいから。僕、人間の裸体見飽きてるから」 「は、はあ……」  下着一枚になるようにと言われ、言われるがまま服を脱いでベッドの上に俯せへとなる。  自分なりに鍛えていたつもりだが、この会社に来てノクシャスや他のヴィランたちを見てしまったからか自分の体がより貧相に思えて恥ずかしかった。  それに、研究職であるモルグの方が俺よりも線は細く見えるが、腕まくりしたときに覗く腕からしても体つきはしっかりしている。  なんだか惨めな気持ちになるが、こんなコンプレックスを刺激されてる場合ではない。 「失礼しまーす」と間延びしたモルグの声が降りてくる。そして、間もなくしてベッドの上にもう一人分の体重が掛かる。  モルグの気配を背中に感じ、思わず息を飲む。それを察知したのだろう、そっと背中に触れたモルグ。 「それじゃ、力抜いてねえ」 「は……い……ッ」  筋肉痛は足だけなのだから足だけでもいいと伝えたのだが、どうせ明日にくるだろうからついでに全身ほぐしてあげる。そうモルグは言った。  手のひらが肩甲骨の辺りに触れ、その横のツボを親指でなぞるようにぐっと押される。痛みはない、寧ろ力加減も丁度良い。 「……っ、ふ、ぅ……ッ」  目の前のクッションを手で手繰り寄せ、しがみつく。ぐ、と加える力が増すにつれ、全身へと熱が広がる。  そしてそのまま軽く肩を掴まれ、背中をぐっと押されたとき。 「ん、ぅ……ッ!」  思わず口から声が漏れる。 「痛かった?」と耳元でモルグに尋ねられ、俺は首を横に振った。 「い、いえ……っ、声が出てしまっただけで……気持ちいいです……」 「だろうね、君ここ性感帯でしょ?」 「え?」と振り返ろうとしたときだった。先程よりもさらにツボをぐりぐりと指で押された瞬間だった。 「ん゛ぃ……ッ!!」 「あはっ、すごい声出たねえ」 「っ、はー……ッ、ぅ……ッ、も、るぐさ……ッ、待……ぅ゛んん゛ッ!」 「ちゃんと口開けて呼吸して、じゃないと窒息しちゃうよ? 俺が機械の心臓作らなきゃならなくなるから。……ああほら、枕掴むの禁止」  モルグは俺の腕の中のクッションを奪いながらも、もう片方のツボを押す手は止めない。  肩甲骨から背骨周辺を指で圧される。痛みなどはない、けれど、耐え難いほどの気持ちよさに声を抑えることができず、恥ずかしくなる。 「っひ、ぅ゛ッ!」 「君感じやすいね。鎖骨に背中ときたら……ここも弱いのかな?」  そう脇腹を撫でられた瞬間、反射的に腰を捻ってモルグの下から這い出ようとする。が、すぐに上からモルグに抑え込まれ、身動きすら取れない。  やっぱりこの人もヴィランだ、力は俺よりもずっと強い。 「っ、も、るぐさん……ッ」 「あはっ、泣いてる? こそばゆかった? ごめんごめん、かわいいねえ。ほら、大丈夫。怖いことなにもしてないよぉ?」 「揉み解してあげてるだけだから」そう、慰めるように脇腹を撫でられればそれだけで過敏になっていた体がびくんと跳ねる。  自分でも分からない。マッサージしてもらうことは何度かあったが、それでもこんな風に取り乱すほどではなかった。  なにをしたのか、それともただ単にモルグが俺の弱いところを見抜いてるからか。  どちらにせよ。 「っ、は、恥ずかしいので……せ……いかんたい、とか、言わないでください……ッ」 「性感帯の場所知りたくないの? 後々便利になるのに?」 「い、いいです……っ、知りたくないです……ッ」  意識すればするほど、モルグのツボにハマっていくような気がした。そう断れば、「ふーーん、ま、いいや。おーけー、じゃこのまま下半身行くねえ」とモルグは微笑んだ。先程と変わらない笑顔だ。  気を取り直して、俺は姿勢を整える。なんだかまだ心臓が煩い。まだ触れられてもいないのに、これからモルグに下半身を触れられるのだと思うと勝手に意識が下にいってしまうのだ。  今思えば俺、下着しか履いてないんだ。……恥ずかしい。モルグから見た俺はさぞ滑稽だろう。 「じゃ、触るよ。良平君」 「は、はい……お願いします」  もじ、と体勢を再度直し、俺はまな板の上のマグロになる。  最初にモルグの手が触れたのは、太腿の裏側だった。覚悟していたものの、やはり低体温気味のひんやりとした手には毎度反応してしまう。  けれど、今度は先程よりもモルグの手付きは優しかった。 「……っ、ん、……ぅ……」  緊張している太腿の筋を強く押しすぎず、その周囲の筋肉を丹念に揉みほぐしていく。  ……気持ちいい。思わず目を瞑り、うつらうつらとしていたときだった。 「善家君って、もしかして鍛えてたりした?」  モルグの声が頭の上から落ちてくる。 「っ、は、い……ずっと、ヒーローに、なりたくて……ッん、ぅ……ッ」 「あはっ、過去形なんだ」  ここはヒーローたちを敵対視するヴィランたちの巣窟。黙っていた方がいいと思っていたが、それでもつい素直に言ってしまったのはモルグの持っている独特の雰囲気がそうさせてるからだろうか。 「す、みません……皆さんヴィランなのに……」 「いーよ、別に。僕はそういうのにはあんま拘らないしね。……ノクシャスやナハトには言わない方が懸命だろうけど」 「……っ、ん、ぅ……そう、ですよね」 「それに、なんだかそんな気はしてたんだ。……だって、君ってあまりにもヴィランって感じはしないんだもん」 「お人好しで、人に寄り添うところとか」なんて、俺を励まそうとしてくれてるのだろうか。それはここにきて、俺が皆に感じたものでもある。  それでも、モルグにそう言ってもらえると嬉しかった。 「それで、ヒーローになるつもりだったところをボスに連れてこられたってわけ?」 「……えと、一応……そうなるんですけど……」  その辺りの記憶が曖昧なのだ。  就活のため、履歴書を抱えてヒーローの所属するプロダクションや事務所、それこそ派遣会社など色々なところを見て回り、そして片っ端から面接を受けようとしていたところまでは覚えてる。  そして早速面接へと向かおうとしていた――そこで記憶は途切れていた。 「面接行く途中……気が付いたら、皆さんがいました」 「あー、なるほど。……それは災難だったね」 「……っ、ん……ッ、……でも、俺、あの日……攫ってもらえて……良かったんじゃないかって思ってるんです」 「それは昼間言ってた出ていかない理由の話?」 「はい……それもそうなんですけど、おれ、ぉ、……俺には……才能がなくて……ッ」  そう、口にしたときだった。両足の脹脛へと触れていたモルグの手がぴたりと止まる。 「…………それは、君がそう思ってるの?」 「は、い……気持ちだけあっても、駄目だって……それに、俺、痛いのも苦手だし……弱いし、周りの人たちや、先生もやめろって……ッ、ん、ぅ、……っ、ぁ、モルグさん……ッ!」  モルグに掴まれた足に次第に痺れるような痛みが増していく。驚いて声を上げれば、モルグは無意識のうちに力加減を誤っていたようだ。 「あっ、ごめん……痛かった?」 「い、いえ……大丈夫です……」  はっとしたモルグはそう、もう一度「ごめんね」と俺の背中にキスをする。あまりにも流れるような仕草で驚く暇もなかった。 「……けど、ヒーローになれない子なんていないよ」 「え?」と声を上げたときだった。モルグの手は脹脛から俺の足に触れた。そのまま足の裏に触れる細い指の感触に、堪らず息が漏れた。 「……ッ、ん……ッ!」 「足の裏も硬くなってるね……柔らかくしてあげるからね」  モルグの指先は細い。だからこそどんなツボにも上手く入るのだろう。軽く膝を折られ、そのままぐりぐりと足の裏のツボを刺激される。  抗い難い持続的な刺激に全身は熱のあまり発汗し、俺はシーツにしがみついた。それでも、その快感を上手く逃すことはできない。 「っは、ぁ……ッん、っ、モルグさ……ッ」 「……気持ちいい?」 「は、い……ッ、ぁ、待って……ッ」  不意に、体を仰向けに返されそうになり血の気が引いた。待ってください、と止めようとするが間に合わない。視界が広がり、そして、最も熱の集まっていた下腹部を照明の下に晒された。  恥ずかしかった。  下着の中、性器の形までも一見して分かるほど浮かび上がり、勃起した己自身が。そして先走りで濡れ、色濃く変色した染み部分を見てこちらを見下ろしていたモルグは微笑むのだ。 「……あれれ、最初性感帯いじりすぎちゃった?」 「っ、ご、めんなさい……俺……ッ」 「大丈夫だいじょーぶ。……気持ちよくなったらみーんな、ここ濡らすから。生理現象だよ、恥ずかしいことじゃないからどうどうとするんだよ。……いい?」 「……っ、は、い……」  こくこくと頷き返す俺に、モルグはうんうんと満足げに頷く。そして。 「じゃ、次はそこに手をついて開脚してみようか」  そう、変わらない笑顔でさらりとそんなことを口にするのだ。

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