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06
……。
…………。
なんだか、全身がぽかぽかする。
いつの間にかに俺は眠りに落ちてしまっていたようだ。微睡む意識の中、目を覚ませばそこには……。
「やあ善家君、おはよう。よく眠ってたね」
「ひっ!!」
「ひっ、て。ふふ、驚きすぎじゃない? 傷つくなあ……」
なんて、ベッドに腰を掛けて勝手にコーヒーを飲んでいたモルグは俺の腰を撫でてくる。
別になんともない、撫でられただけにも関わらずじんわりと熱を持つ下半身にぎょっとし、俺は慌ててモルグから逃げるように体の上に掛けられていたシーツで下腹部を隠した。
「あっ、すみません……お、俺……いつの間にかに寝て……」
「いーよいーよ、別に。僕もやりすぎちゃったからねえ。あ、シーツも全部クリーニングさせておいたよぉ」
「シーツ……?」
「ん? 覚えてないのぉ?」
「…………」
沈黙。そして、次々と掘り起こされる記憶に全身から血の気が引いていく。
夢、だと思っていた。なんかすんごい気持ちいい夢。だけど、もしこれが現実ってことなら……俺は……俺は……。
「すっ、すみませんでした……っ! お、俺……っ
!」
「わあ、びっくりした。……なにが?」
「も、モルグさんの前で……あんな……っ」
「あ、もしかしてぇ〜……お漏らししたこと言ってる?」
「……っ、ぁ……あぁ……」
全身の熱が顔面に集まっていくのが分かった。
穴があったら入りたい、とはまさにこのことだろう。ふかふかの新品のシーツを被り、モルグの視線から逃げようとすれば、呆気なくモルグにシーツごと奪われた。そして、モルグは「どうしたの〜?」と不思議そうにこちらを覗き込んでくる。
「ぉ、おれ……あんな……」
「気持ちよくなかったぁ?」
「き……っ、気持ちよかったです……」
死ぬほど、と思わず口からでそうになる。
そんな俺を見て、モルグはにこ〜っと微笑むのだ。そして「じゃあ別によくない?」と笑った。
「へ……」
「うーんでもやっぱ一度や二度じゃ君のその難儀な性格は変わらないってことかあ……。君が言うには先天的なものらしいからねえ。けど、徐々に慣らしていけばきっと君も変わることができるよ」
「あ、あの……モルグさん……?」
「ってなわけで、もう一回僕と慣らしておこうか?」
なんて、人良さそうな笑顔を浮かべ、俺の手を握り締めてくるモルグに血の気が引いた。
「も、もう一回……?」
「マッサージは少し君に刺激強かったみたいだから、まずはこうした接触から……」
え、え、と絡められる指に狼狽えていた矢先だった。いきなり部屋の扉が開く。そして。
「…………………………」
現れたのはナハトだった。
ベッドの上、半ばモルグに押し倒されそうになっていた俺を見たナハトは一瞬物凄い顔をし、そして即座にモルグの首根っこを掴む。
「……ねえ、何してんの? 変態」
「あ、ナハトお帰り〜ボスとの用事は終わったのお?」
「終わったからこうしてここに戻ってきたんでしょ。……何してんの?」
「ん〜? 善家君と仲良くしようと思って」
「…………」
狼狽えもせずあっけらかんと答えるモルグにナハトは深い溜息を吐き、そして俺から引き剥がす。
「……こいつの面倒は俺が見る。あんたはさっさと大好きな人体改造に戻ってなよ」
「珍しいねえ、ナハトがそんな風に積極的に人の面倒見たがるなんて興味深いよ」
「え、そうなんです……ふぁっ!」
「……いちいちそいつの言うこと真に受けなくていいから」
……ナハトに頬を摘まれてしまった。「ふぁい」と頷けば、ナハトはふんと鼻を鳴らす。そんなナハトにやれやれと肩を竦めたモルグはそのまま部屋を出ていこうとする。
「ふふ、すっかり仲良しさんだねえ。……じゃあ善家君、またねえ。僕はいつでも待ってるよ」
そうひらひらと手を振り、モルグはそのまま部屋を出ていった。その最後の言葉に先程までのやり取りを思い出し顔が熱くなる。
「……なにあれ、どういう意味?」
「さ、さあ……」
「……なにか俺に隠してる?」
「か、隠してない……っ、隠してないですから……っ!」
「……ベッド、シーツ変えた?」
「……っ!!」
「………………」
す、鋭い。なんでこんなに鋭いんだ。
じ……と、白い目を向けてくるナハトだったが俺が口をぱくぱくさせてるとやがて深くため息を吐く。
そのままベッドに横になるナハト。
「……あ、あの……ナハトさ……」
「善家のくせに生意気。……寝るからあっち行って」
「え、あの、そこ俺のベッド……」
「お前はそっちのソファーで寝たらいいじゃん」
そう、拗ねたように俺からシーツをひったくったナハトはその中に丸くなる。
どうやら俺に秘密にされたことが気に入らなかったようだ。……どうすればいいのかわからず、取り敢えず俺は言われるがままベッドを降りる。
やはり、モルグにされたことはナハトには言えないけど。けれどもだ。……せっかくナハトと仲良くなれた、かもしれないと思ってた矢先にまた避けられるのは寂しい。俺はお詫びの代わりのナハトの好きなお菓子をそっと枕元に置き、ソファーへと戻った。
それから数十分後、バリバリ!!となにかが潰れるような音ともに「善家……っ! こんなところに食べ物を置くな!」とナハトに怒られるハメになったのは言わずもがなだった。
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