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ナハトの部屋の中。
人を連れ込むなり、ぱっと手を離したナハトはそのまま部屋の奥、ごろんとベッドの上に寝転がる。こちらへと背中を向け、そのまま丸まるその後ろ姿はなんだか猫のようにも見えた。
「ナハトさん……あの、本当に無理しなくても……」
先程のはノクシャスとの押し問答の際出てしまった言葉なのだろう。それならば、本当に自分がここにいる必要はない。そう思い、恐る恐る声を掛けてみればナハトは「無理してない」とそっぽ向いたまま答えるのだ。
「ナハトさん……」
「電気消して」
「あ、は、はい」
言われるがまま、リモコンを操作して照明を暗くした。真っ暗にすると動けなくなってしまいそうなので、ほんのりとナハトの影が見えるくらいの明るさに調節する。
「俺は、どうしたら……」
「こっち来て」
『いいでしょうか』と続けるよりも先に、ナハトは被せるように口にするのだ。
それは最早命令の言葉だった。それでもナハトが俺を必要として側に置いてくれると思うと素直に嬉しく思えてしまう。口にすれば、この状況下で喜ぶなんて飽きられてしまい兼ねないが。
なんて思いながら、ベッドの側までやってきた俺は「来ましたよ」とナハトに声をかける。
瞬間、目の前でナハトの影が動いたと思った矢先、伸びてきた腕に腕を掴まれた。
「え」
と、俺が口を開いたのとベッドの中へと引きずり込まれるのはほぼ同時だった。
ぼふんとバランスを崩した身体はベッドマットの上に沈む。そして、俺の横にはほんのりと下体温。驚いたのも一瞬、視界が利いてくるにつれて目の前、ナハトがこちらをじっと見ていることに気付いて息を飲む。
――近い。
「っ、ま、待って……ナハトさん……っ」
「……なに。どうしたらいいか聞いてきたのはそっちだろ」
「でも、そのっ、流石にこの距離は……」
ナハトのベッドは俺が寝てもまだ寝返りは余裕で打てるほどの広さはあるが、そういう問題ではないのだ。
それでも、ナハトの端正な顔で「嫌?」なんて言われると相手がナハトだと分かってても心臓が騒ぎ出してしまう。
「い、嫌じゃないです……っ! いや、ちが、その……ナハトさんこそ、俺がいたら寝れないんじゃ……」
そうだ、ただでさえ人がいると休めないというナハトの体質を考えると流石に同じベッドはアウトではないだろうか。
必死に逃げるための言葉を探る俺に、ナハトは表情を変えないまま「実験」とぽつりとつぶやいた。
「え……」
「……あんただったら、まだ他のやつよりはマシだから。……慣れるか試してるだけ」
その言葉を聞き、胸の奥がじんわりと熱くなる。
あまりナハトからこういった罵詈雑言以外の本心を聞くこと自体ないからだろう。少しは俺のことを信頼してくれてるのだと思うと素直に嬉しくなってしまう。
「……そう、ですか。そういうことなら……」
「……」
ほっと安堵する俺に、ナハトはなにも言わなかった。もしかしてもう入眠しようとしてるのだろうか、俺は煩くしないように口を紡いだ。
……それにしても、難儀な性格だと思う。
ずっとそうだったのだろうか、ナハトは昔の話をしたがらない。それはナハトに限らず、他のヴィランも同じだ。
――そりゃそうだ、みんなそれぞれ理由あってこの地下にいるんだからな。
地上で暮らしていたときでは考えられなかっただろう、こんなことを考えるなんて。
思いながら、俺も目を瞑る。
ナハトにやっぱり邪魔だから出ていけと言われたらいつでも出ていけるように軽く目を瞑るだけ――そう思っていたのだが、隣にナハトがいることで俺は気が緩んでしまったようだ。いつの間にかに本格的に深い眠りへと沈んでいった。
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