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11※
夢心地の中、なにかが前髪に触れる感触を感じた。さらりと触れる指先に、最初はただ掠めただけなのだろうかと思ったがそれもすぐに違うと気付かされる。
前髪を梳くように優しく触れられ、そっと腫れ物か何かに触れるように撫でられると流石に気づく。
ナハトの指だとすぐに分かった。それでも、何故ナハトが俺に触れてるのだとかそんなことを考え始めると頭の中がこんがらがってくる。
それでも、目を覚ますことはできなかった。あまりにもそっと俺を起こさないようにしてるのが分かったからだ。
けれど、流石に。これは。
ぷに、と唇にナハトの指が触れたとき。微かな吐息が掛かる。目を開けずともその熱からナハトの距離を感じることができた。
「……っ、……」
必死に寝たフリをしようとするが、俺は演技だとかそういったものは苦手だった。あまりにも自然体でいようとするあまりに緊張し、全身がガチガチにこわばってしまった時。
唇に触れていたナハトの指が離れる。そして、そのままむに、と下唇を柔らかく抓まれるのだ。
「ん、む……っ?!」
驚いて目を開けば、目の前にはナハトの顔。寝る前とは変わらない薄暗い照明の下、ぼんやりと照らされたナハトの近さに思わず飛び上がりそうになる。
そんな俺を見て、ナハトは呆れたように笑う。
「……ねえ、なにそれ。俺相手に狸寝入りのつもり? ……下手すぎじゃん」
「な、はとさ……っ」
「……起こした?」
それは小さな声だった。やはり、俺を起こさないようにしていたようだ。
「いえ。その……」
「……」
「あの、やっぱり眠れなかったんじゃ……ふぎゅっ」
なにを言っても責めるように聞こえてしまうのかもしれないと思い、咄嗟に話題を変えてみるが今度は鼻柱を抓まれてしまう。
「俺が寝れないってのに、俺よりも早く爆睡してるアンタの顔を見てたら堪らなくなってね」
「う、ご、ごめんなさい……」
「……別に、謝んなくてもいいけど」
言いながら俺から手を離したナハト。いつもならおまけと言わんばかりにデコピンくらいはしてくるはずなのに、やはり本調子ではないようだ。そのまま天井を向くナハト。
「やっぱアンタって変だね。……緊張感ないし」
「そ、そんなこと……俺だって緊張してねれないことくらいあります」
「俺とだとすやすや眠るくせに?」
「え、えと……それはその、そうですけど……」
「そういうところが変なんだよ。……他の奴らは俺と一緒部屋にいること自体嫌がるやつが多いのに」
浮かべるのは自嘲的な笑みだ。ナハトの言葉に素直に疑問が浮かぶ。
「そうなんですか?」
「そうだよ」
「確かに俺も、ナハトさんは最初は怖い人だと思いましたけど……嫌だとは思ったことないですね」
「……………………別にそんな話は聞いてないんだけど?」
「つ、冷た……っ?!」
ナハトがこちらを向いたと思えば足を絡められ、触れるナハトの素足の冷たさに驚いて布団の中で逃げようとする。
ナハトは笑い、そして俺の手に触れるのだ。そのまま逃げようとしてた身体ごと捕らえられる。
「ナハトさん……っ」
「……あっつ。良平、もしかして熱あるの?」
「……そ、れは……ナハトさんが……」
近いから、と言い掛けて「俺が? なに?」と顔を寄せてくるナハトに言葉が詰まる。その口元には薄ら笑い――この人、わざとやっている。
「な、ナハトさん……寝ましょう……っ! せめて目を瞑って横になるだけで少しは楽になれるかもしれませんので……っ!」
「良平、お前心臓煩すぎない?」
伸びてきた手にシャツ越しに胸を撫でられ、ぎょっとする。ナハトの掌が胸板に置かれ、心臓の音を確かめるように胸に耳を押し当てるナハト。心臓から流れる血液が勢いよく全身へと巡っていくのが分かった。
「……ドクドク聞こえてくる」
「っ、ナハトさん……ッ」
緊張と動揺のあまり声が裏返りそうになった。上目がちにこちらを見ていたナハトだったが、そのまま目を瞑るのだ。
「……なんか、こっちの方が落ち着くかも」
そんなことを言いながら人の胸の中で眠ろうとするナハトに思わず息を飲む。
状況が状況なだけに今すぐにでも離れてほしいが、そんな風に言われると無理矢理引き剥がすことなどできなかった。
「な、はとさん……」
「……良平、息荒い」
「す、すみません……っ、静かにします……」
無茶だと分かっていた。それでも、ナハトが「じゃ、頑張って」なんて言うので頑張らざるを得ないのだ。
そして、そのまま目を伏せるナハト。その長い睫毛が微かに揺れる。
鼻息がうるさいと言われたので、微かに口を開いて少しずつ、少しずつ深く肺に溜まった息を吐き出す。されど、緊張が解れることなどなかった。
「……っ、……」
これは、ナハトの顔があまりにも俺の好みであることと前前前回ことが深く関係してると思わずにはいられなかった。
ナハトだと分かってても、いや、ナハトだからこそ余計意識してしまうのかもしれない。
いつの間にかに固くなった股間のことをナハトに知られたくなくて、必死にベッドから落ちてしまわない且つナハトから離れすぎない距離を保ちながらも腰を引く。その度に、触れ合う爪先に身体がびくりと震えそうになった。
改めて考えると、おかしな状況だ。
実験とは言えど、こうして同じ布団の中に入るなんて。おまけに、こんな体勢で。
いや、駄目だ考えるな。もっとこう、違うことを考えて緊張を解そう。そう決意するものの、胸に顔を埋めたナハトのつむじからナハトの微かに甘い匂いがしてすぐにその努力も水の泡になる。
それでもナハトが安眠できるよう努めていると、胸の傍でナハトが笑った。そして。
「……ッ、ぅ、あ……」
ジャージの下、テント張っていたそこを手で触れられる。そのまま亀頭の部分を抓まれれば、アホみたいな声が漏れてしまった。
はっとし、口を手で塞いだときには遅かった。
いつの間にかに目を開いていたナハトは、そんな俺を見て厭な笑みを浮かべるのだ。
「っ、な、な、ナハトさん……ッ?!」
「声、裏返りすぎだし」
「い、いや……なに、して……」
「別に」
「別に、って」
するりと華奢な指が下着ごとジャージのウエストのゴムを引っ張るのだ。勃起した性器がぷるんと飛び出しそうになるのを見て、ナハトはそのまま頭を出したそこを二本の指で捕らえる。
「っく、う」
「……あまりにもアンタが健気だから」
だから、たまには労ってやろうと思って。
そう呟くように耳朶を唇ではむ、と挟まれればその吐息の近さと性器に絡みつくナハトの指の感触で頭の中が真っ白になる。
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