25 / 179

12※

「い、いえ、そんな……っ、ナハトさんには、日頃から……じゅっ、充分……よくしてもらってるので……ッ」  尿道口を縦に潰すように柔らかく亀頭を潰される。ナハトが指を動かす度に自分の下半身から発せられる濡れた音がただ恥ずかしくて耐えられず、ナハトの腕にしがみつけばナハトは機嫌を良くするどころか「はあ?」と露骨に不機嫌になるのだ。 「……なにそれ。ノクシャスはいいくせに俺に触られるのはやなわけ?」 「ッ、ち、が……」 「……良平のくせに」  なんでだ、何故休んでもらおうとしてるだけなのに益々ナハトの機嫌が悪くなるのか。  男にしてはきめ細やかで細い指は的確に俺の弱いところに絡みつき、突いてくるのだ。快感から逃れようと腰を引こうとすれば、先手を打たれて腰を抱き寄せられる。 「なに逃げてんの」 「な、はとさん……っ、駄目です、傷が……また開いたら……ッ」 「問題ないよ。……てか、なに? 開くようなことしろって言ってんの、それ」 「っ、ぁ、や、ちが……っ、俺は……ッ」 「焦り過ぎ」  亀頭を覆うように掌で覆われたと思えば、そのまま尿道口を掌で擦られる。ぐぢゅ、と音を立てて擦られれば逃れられないほどの強い快感に堪らずナハトの服にしがみついた。  そんな俺を見てナハトは笑うのだ。冷ややかな笑顔――ヴィランの顔だ。 「く、ッ……ひ……ッ」 「凄い量出てるし……なに? そんなに好き?」  これが、と柔らかく包み込むように掌を動かし、そのままマッサージするように擦られれば擦られるほど悲鳴を上げてしまいそうになる。まるで神経の束を直接弄られるようなほどの強すぎる刺激に耐えられず、足を伸ばして逃げようとするがナハトはそれを許さない。そのまま上に乗り上げてくるナハトに押し倒されるような形になり、片方の手で勃起したそこを固定しさらに扱く手を早めるのだ。 「ッ、ぁ、待っ、……ッ、ひ、ぅ……ッ!」 「声、デカすぎ。……良平、気持ちいいんだ?」 「き、もちぃ、です……ッ、ぉ、れ……もぉ……ッ!」  大丈夫なので、という言葉は続けることができなかった。  先走りで滑る竿を撫でられるだけでも堪らず、そのまま細い指先で皮を伸ばされながらも剥き出しになったそこを存外優しい手付きで愛撫される。  なによりも、ナハトに触れられるという事実だけでも我慢なんてできるはずもなかった。 「っ、う、んん……っ!」  ビクビクと痙攣し、ナハトの手の中で呆気なくイカされる。吐き出される精子を掌で受け止めたナハトは僅かに微笑む。 「はっや……てか、量多くない?」  言いながら俺の目の前、わざと見せつけるように掌で受け止めた精液を広げるのだ。俺は恥ずかしくて情けなくてそれを直視できず、ぎゅっと目を瞑る。 「ご……っご、めんなさ……っ」 「駄目、許さない」 「え……んぅッ」  言いかけた矢先だった。ナハトの手に口を覆われる。咄嗟に口を閉じれば、ぬちゃ、と音を立てて独特の味と匂いが広がる。精液で汚れた掌で俺の顔を触れるナハトは愉しそうに笑った。 「良平、綺麗にしろよ。……お前のだろ?」  ナハトが元気になれば、或いは少しでも塞ぎ込んだ気分が紛れてくれるなら、と思ったが……方向性が違う。  それはそれでも、口と鼻いっぱいに広がる自分の味に頭の奥がぼうっとしてなにも考えられなくなるのだ。  ……ナハトが喜んでくれるのなら、いいか。 「……ふぁい」  麻痺しかける頭の中、俺はナハトに促されるがままナハトの掌に恐る恐る舌を伸ばす。  掌にまとわりつく粘ついたそれらは決して美味しいと思えないが、恐ろしいことにナハトの手に犬のように舌を這わせることに嫌悪感を覚えなかった。  手相の皺の隙間から指の谷間まで、稚拙な動作で舐め取り、啜り、汚れを取ろうとする。そんな俺を見て、ナハトは呆れたように目を細めるのだ。 「……っ、本当、あんた言うこと聞きすぎ」 「っ、ん、ぅ……っ」 「そんなんだから、あの脳味噌筋肉とか変態に付け込まれるんだよ」  丹念にナハトの手をきれいにしようとしていると、細い指に顎の下を撫でられる。そのまま軽く顔を持ち上げられた時、犬がなにかのように首と顎の付け根のあたり撫でられた。 「っ……な、はとさん……」  いつも足蹴にされたり背中小突かれたりクッションにされてたりと触れられることは多かったが、こんな風に触れられるのは初めてかもしれない。  逃げることなど考えていなかった。  緊張しないわけではないが、それでも。 「……はあ、調子狂うな」 「……?」  そう、不意にナハトの方が先に視線を反らしたと思った時。ぱっとナハトの手が離れる。  そして。 「――……やっぱやめた」 「へ……」  それは予想してなかった言葉だった。  いや、ずっと考えていた。あわよくばナハトが萎えてくれたらと思ったが、まさか本当にそうなるとは思わなかったのだ。  きょとんとする俺に、ナハトは苛ついたようにベッドから立ち上がる。 「っ、あの、おれ……なにか……」 「違う。……全然抵抗しないから」  ナハトの口から出た言葉に、「え?」とアホみたいな声が出てしまう。 「ずっと震えてるくせに、嫌も言わないし」 「そ、れは……ナハトさんだから……」 「それ、そういうとこ」  何故。いや、待てよ。これじゃ俺はこのままナハトと色々してもらうことを望んでるみたいじゃないか、と考えているとナハトはそのまま部屋の奥へと歩いていく。 「ナハトさん……」 「……シャワー浴びてくる。あんたのせいで汚れたから」 「う……」  すみません、という俺の言葉がナハトへと届いたかは分からない。  それでも、ナハトのいなくなったベッドの上。まさに突然放り出された気分の中、俺は自分の下半身へと恐る恐る目を向ける。 「……、は」  失笑すらしない。ナハトに命令されて、自分の精子を舐めさせられていたというのに正座した下腹部からは勃起した性器が主張していたのだ。  ……ナハトには見られなくて良かったらしい。  そうだ、元はといえばナハトの方がまだ理性的なのかもしれない。  遠くからナハトのシャワー音が聞こえてくる。それを聞きながら、恐る恐るつんと勃起した性器に手を伸ばした。 「っ、ふ……う……ッ」  よくないことだと分かっていた。ここは俺の部屋ではない。ナハトの部屋の、しかもそのベッドの上だ。それでも、中途半端にこじ開けられ荒らされたせいで熱は収まるどころか余計増すばかりだった。  声を聞かれてしまわないよう、シャツの裾を噛んだ俺はそのままぬちぬちと勃起した性器を上下に擦る。ナハトには少し触れられただけであんなに気持ちよかったのに、自分の手では物足りない。  先程のナハトの距離の近さ、細い指、冷ややかな目を思い出しながら、更に手を動かす。 「っ、ん、ぅ……ッ! うぅ……ッ!」  イケそうなのに、物足りない。ベッドの上、ナハトの微かな甘い匂いのする枕に恐る恐る顔を寄せる。目を閉じれば、余計興奮しそうになった。枕に顔を擦り付け、ベッドの上、四つん這いになるように腰を突き出した。そのまま性器をひたすら擦る。下腹部にぎゅっと力が入る。もう少しで出そうなのに、そのもう少しが遠い。  早く、ナハトが戻ってくる前に早く終わらせなければ。そう思いながら恐る恐るお尻に触れた。  モルグにマッサージという名目で散々肛門を弄られた日から、射精が近くなると肛門が疼いて仕方なかったのだ。それでも、モルグが言っていた前立腺というのは自分一人で探すことには時間かかってしまうが、それでも気分が高まってくるとコリコリしてくるので探しやすくなる。  唾液で濡らした指で肛門に触れる。そのままつぷりと指先を埋めれば、内壁が異物を吐き出そうと絡みついてくるのだ。 「っ、ん、ふ……ッ、う、んん……ッ!!」  性器を擦る度に、体内に埋め込まれた指を締め付けられる。それをこじ開けるように、第一関節、第二関節と指先を埋めていった。  やはり、モルグのようにはいかない。もたもたと、逆に気が散りそうになりながらも前立腺を探るように指を動かす。声が漏れそうになるのを必死に奥歯を噛み締めながら、俺はそのまま腰を浮かせたまま指を動かしていた。  正直なところ、俺は自慰に夢中になっていた。  腰を浮かせたまま、前と後ろを自分の手で慰めることで精一杯だったからいつの間にかにシャワーの音が止んでいたとかそんな些細なことにすら気付けなかったのだ。 「っ、う……ッ、んん……ッ」  肛門の指を指し抜きする度にぬぽ、ぐぷ、と恥ずかしい音を立て空気が混ざる。自分の指がいいところに当たるように腰の位置を調節しながらもその間も性器を擦る手を止めないようにしていたときだった、指先にこりこりとしたものが触れた。瞬間、咥内に唾液が滲む。じっとりと汗が滲み、堪らず大きく退け反った。  ――見つけた。 「……ッ、ふ、う……ッ! ん、う゛ぅ……ッ!」  内股が突っ張ったように震える。痒いところに手が届いたような刺激にじんわりと頭の奥が熱くなり、呼吸が浅くなる。  これだ、このまま。二本目の指をねじ込み、そのまま二本の指の腹で交互に絶え間なく前立腺を愛撫すれば姿勢を保つことができなかった。 「……ふーッ、ぅ゛……ッ、う゛……ッ!!」  ナハトの枕に顔を埋めればナハトの匂いが頭でいっぱいになり、罪悪感と緊張感が余計興奮してしまうのだ。こんなのいけないことだと分かっていたけど、だからこそ余計やめられない。  自慰に集中するため、目を瞑って更に指の動きを激しくする。濡れた音が増し、競り上がって来る熱を殺すこともできないままベッドの上で身体を丸めた。そのまま爪先に力が入り、ぴんと背筋を伸ばす。瞬間、腰が大きく震える。精液はでなかったが、かわりに勃起したままのそこからはとろりとした先走りが溢れていた。それでも確かに絶頂した感覚はあり、俺は肩で息をしながらもゆっくりと目を開く。  そして、凍り付いた。 「……一人で随分と楽しそうだね、アンタ」  タオルを頭から被ったナハトはベッドの前、恐ろしいほど冷たい目でこちらを見ていたのだ。

ともだちにシェアしよう!