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 前立腺マッサージでもただの扱きあいとも違う。  つまり、それは、セックスでは。 「な、はとさんっ、待って……」  ください、と背後を振り返ろうとした矢先だった。伸びてきた手に後頭部を掴まれる。そして。 「待たない」 「――ッ、ぁ゛」  一瞬の出来事だった。  解され、割り開かれた肛門に押し当てられる亀頭がずぶりと沈む。  肺に溜まった空気ごと潰すように腹の奥、臓器ごとを押し潰されるような指なんて比にならない圧迫感に堪らず目を見開いた。  中に、入ってきている。指何本分の太さと質量のそれが、開閉していた肛門、括約筋を限界まで広げて侵入してくるのだ。 「……っ、キッツ」 「ッ、ぅ゛……ふ、ぅう゛……ッ!」 「あ……なに、もしかして良平、お前――まさか初めて?」  逃げようとする俺の腰を捉えたまま、浅く息を吐くナハトはふとそんなことを言い出すのだ。  この際、ナハトに誤解されていたのも仕方ない。俺の日頃の行いが、というかナハトに見られてきたタイミングが悪いのだ。  そう思うことはできたが。 「ま゛……っで、っでぇ……い゛ッ、た、のにィ〜〜……ッ」  元から、ナハトに加虐的嗜好があることは知ってた。そもそもヴィランと呼ばれるような相手だ。  それでも、少しは俺の言葉を聞いてくれてもいいのではないか。そうナハトの方を振り返ったとき、俺はナハトの顔を見て青褪めた。  泣きそうになってる俺を見下ろし、ナハトは今まで見たことないほどの楽しげな笑みを口元に浮かべていたのだ。  瞬間。 「っ、あ゛、ぐひ……ッ」 「ああ……っ、へえ、そーなんだ……っ、は、俺がお前の初めてなの?」 「な、はとさん……ッ、まっ、うご、かな……ひっ、ぃ゛……ッ!!」  沈む。俺の腰を掴み、持ち上げたままナハトは腰を沈めてくるのだ。  ゆっくりと、それでも着実に亀頭からカリ、根本までずぶ、と中へと入ってくる。括約筋を限界まで押し広げ、恐ろしいほどの熱を持った肉棒が体内へとねじ込まれるのだ。  息をする暇もなかった。 「は、ぁ゛……っ」 「なに、初めてなら最初からそういえばいいのに……っ、ねえ、良平……ッ」 「――ッ、ふ、ぅ゛」  ず、と柔らかく解された内壁を限界まで腫れた亀頭で内側から摩擦される。カリの凹凸が引っかかるだけで恐ろしいほどの快感に脳髄ごと掻き回されそうになり、汚い声が喉の奥から漏れてしまうのだ。 「な、は、どさ……ッぁ゛、あ゛……ッ!!」 「……っ、通りで狭いわけだ、力の抜き方下手すぎ……ッ」 「んぅう……っ! は、ぅ、う゛……ッ!」  みちみちと臓器を押し上げるように深く、奥へとナハトの性器が入ってくるのが分かった。  腹ごとぶち破ってくるのではないかと思うほどの圧迫感に耐えられずにベッドの上、這いずってナハトの性器から逃げようとすれば覆いかぶさってくるナハトに背後から抱き締められ、更に密着するように腰を押し付けられるのだ。  その拍子に更にぐっと押し上げられる性器に堪らずのたうち回る俺を捕まえ、ナハトは更に腰を打ち付ける。 「ぁ゛、ぐひ、っな、はとしゃ、待っ、へ」 「……っ、聞こえてるし、待たないってば」 「ッ、ぉ゛、ふ……ッ! う゛、ぐひ……ッ!」  短いストロークで奥を執拗に突き上げられる。  突き当りを亀頭で押し潰される度に目玉の裏側が赤く染まり、頭の中が掻き回される。  食いしばった奥歯の奥からは獣じみたうめき声が漏れ、一方的に挿入されるそれを受け入れることが精一杯だった。 「ぁ゛ッ、う゛……ッ、ひ、……ッ!!」  ナハトに犯されている。犬の交尾のように、雌犬のように組敷かれ一方的に排泄器官を性器のように犯され、体の奥の奥までナハトに味わられている。  恥ずかしいはずなのに、嫌悪感も恐怖もない。寧ろナハトが俺に興奮して勃起してくれてるということに心が喜んでいることに戸惑うのだ。  ナハトが動くだけで下腹部に甘い快感が広がり、それを耐えることができなかった。  散々弄られ、腫れ上がった前立腺にカリが当たるように腰の高さを調節され、再びピストンを再開させられればあっという間に絶頂を迎えた。精液は出ない。  頭の中が真っ白に染まり、なにも考えることができない。弛緩しきる体を抱き止めたナハトは笑った。 「……っ良平、お前感じすぎ。そのうち枯れて死ぬよ」 「っ、はーッ、ぅ、……ッ、ふ……ッ」 「聞こえてないし」  言うや否や、再びナハトは腰を動かし始める。  熱を孕んだままの内壁を摩擦され、突き当り、結腸の入り口に亀頭が当たるようにわざとぐぽぐぽと柔らかく亀頭で押し上げられるとそれだけで性器に熱がじんじんと集まり出す。 「ん゛、う゛……ッ! っ、ぁあ゛……っ、い゛、ま゛っ……ッ」 「だからさ、いい加減諦めなよ」 「ん゛う゛……ッ!!」 「……ッ言っとくけど俺、そこまで優しくないよ」  片腿を掴まれ、更に隙間がなくなるほど腰を密着される。根本奥深く挿入された状態で、指では届かなかったそこを優しく、それでも容赦なく圧迫されれば頭の中で白い火花が広がった。 「ぁ゛……ッ、あ゛ふ……ッ!!」 「っはぁ……っ、良平のくせに締めすぎ」 「そごッ、いや゛、だ、ナハトさ……ッ」 「……ッ、へえ、ここがいいんだ?」 「んぎ……ッ!!」  腿に食い込む華奢なナハトの指。埋まるように更に腰をぐりぐりと押し付けられれば、誰にも触れられたことのないそこを容赦なく責め立てられなにも考えられなくなる。  開いた口からどろりと唾液が溢れ、それを拭うことすらもできなかった。 「ふ、ぅ゛……ッ!! あ゛ッ、ひ、ぐ……ッ!!」 「……っ、あ゛ー……やばいな、これ……っ」 「っなは、としゃ、……ッ! ぉ゛ぐ、にィ……ッ、や、も゛、おれ、また……ッ」 「……ッ、イッちゃえよ、ほら、アナニーなんてしなくて済むようにしてやるから」 「イケ」と耳元、耳朶を舐められ、甘く噛まれる。耳、脳と腹の中内側を同時に犯され、文字通りいっぱいいっぱいになる俺にナハトはただ淫猥な笑みを浮かべ、ペースをあげるのだ。  息をつく暇もなく責められ、ベッドシーツの上、死にかけの魚のように跳ね上がるのが精一杯だった。みっともなくあまく勃起した性器からは先走りとも精液ともわからない液体がただとろとろと溢れ続け、自分の下腹部とシーツを汚す。  そんな状態の俺に更に追い打ちを掛けるようにナハトは俺の腰を捕まえ、引き戻す。みっちりと詰まった内壁を更にナハトの形に変形させるように内側からねっとりと犯されるのだ。 「は、あ゛ぁあ……ッ! ぁ、……あ゛ぁ……ッ!!」  休む暇もなく与えられ続ける快感。自分のものとは思えないような獣のような声とともに性器からは水っぽい精液が勢いよく吹き出す。びくびくと痙攣し続ける腰をナハトに撫でられれば、その感触だけで既にいきそうになるほど俺の快感は限界まで高められていた。 「……っ、良平、お前本当に初めて? 才能アリすぎじゃない?」 「ぃ゛……ッ、ぅ、ごかないれ……ッ」  ください、と言い終わるよりも先に、背後のナハトは「嫌だね」と笑うのだ。  瞬間、ずるりと抜かれかけた性器を今度は一気に奥まで打ち付けられる。瞬間、頭の中、脳味噌に電流を流されたようなそんな恐ろしいほどの快感に呆気なくなけなしの理性は崩壊させられた。 「ん゛、ぅ゛う……〜〜ッ!!」 「あはっ、ねえ、良平? ここグリグリされるの気持ちいい?」 「っ、ぉ゛、なはと、さぁ゛……ッ!!」 「気持ちいいって言えよ、良平……ッ」 「き、もち、ぃれふ……ッ! なはとさ、ぁ゛、ひう゛……ッ!!」 「あ、そ……っ、じゃあもっとよくしてあげるよ……ッ!」  それをまともに受け入れることもできないまま、一方的に貪られる。そんな状況でナハトの言葉を理解できるほどの脳味噌も残っていなかった俺は、いきなり伸びてきたナハトの腕に首元を締め上げられぎょっとする。 「ぐ、ひ」  腕で頸動脈を圧迫される。殺す気はないのだとわかっていた、手加減されてることも。  けれど、ただでさえ酸素の薄いこの状況で首を締め上げられてみろ、全身の筋肉が硬直する。痙攣を起こす下腹部。全神経が結合部へと向けられ、大きくなる心音がナハトのものと混ざり合うのがわかった。ナハトが興奮してるのもわかった。浅くなる呼吸、視界の縁が赤く染まっていき、思考回路は更に混濁する。理性などもはや毛ほど残っていなかった。俺も、――ナハトにも。 「う゛、ん゛ぅう〜〜ッ!!」 「っは、スッゴ、……ナカ痙攣しすぎ……ッ、もってかれそ……ッ」 「ッぁ゛、じぬ゛……ッ、ナハトさ、ぁ゛……ッ、じぬ゛、イぐ、も゛……ッ!」 「……ッ、イケよ」 「もっとみっともない顔してイケよ、ほらッ、良平……ッ」クールで、やる気がないけどやるときはやって、普段は意地悪だけどなんだかんだ優しいナハト。  そんなナハトが笑っている。歯を剥き出して、情欲に目を潤ませ、俺を犯して興奮している。  アドレナリンが溢れ出し、血管に流れる血流の音までも聞こえてくるほど全神経が過敏になってるのがわかった。ピストンの度に頭の中、脳に直結した管から電流を流されるようなそんな強すぎる快感になにも考えられなくなり、ただ喘ぐことしかできない。  混ざり合う体液、吹き出す汗を抑えることもできない。 「ふ、ぅ゛ぎッ、ひ……ッ!!」  どくん、どくんと脈拍が大きく聞こえた。これがナハトのものだとわかったのは、腹の奥の奥まで収まったナハトの性器がびくりと跳ねたからだ。  頸動脈を締め上げていた腕に力が入る。  瞬間、最奥――腹の奥深くに吐き出される夥しいほどの精液に全身の毛穴が開いた。  喉から溢れるのではないかと思うほどの量と熱に、とうとう俺は意識を手放した。

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