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「ッ、の、のふひゃふひゃ……ッん、ぅ……ッ!」  舌を引っ張り出され、そのまま唇ごと噛み付かれる。そう、噛み付かれているのだ。  粘膜に食い込む歯の感触に驚いて緊張する全身。逃れる暇もなく侵入してくる肉厚な舌を咥えさせられ、そのまま舌の根本から絡め取られる。 「ッ、ふ、ぅ゛……ッ!」  まさかキスされるとは思わなかった。いや、最初にしたのは俺だ。けれど、けれどもだ。  胸に這わされた指に乳首を引っ張られ、堪らず仰け反る。 「ッん、ぅ、うぅ……ッ」  痛みによく似た先端部を刺すような鋭い感覚に堪らずくぐもった声が漏れる。逃れようと身を攀じれば、ノクシャスは俺の舌をから唇を離すのだ。 「なんだぁ? さっきまでの威勢はどうした」 「っ、お、俺には……ッ、手を出さないって……」 「煽ったのはテメェだろ」 「そ、そう……ですけど……っ、兄さんに、バレたら……ッぁ、……ッん、ぅ……ッ」  言い終わるよりも先に、苛ついたように舌打ちしたノクシャスに唇を塞がれる。本気で噛むつもりはないのだろう。それでも、先程よりも執拗に舌を絡められ、喉の奥までねじ込まれる長い舌伝いに唾液を流し込まれれば窒息しそうになる。 「っ、ふ、ん゛……ッ、ぅ゛……〜〜ッ!」  どこまで伸びるのかと思うほど、ノクシャスの舌は咥内奥深くまでねじ込まれる。唾液の滲む粘膜中を舌で舐られ、口蓋垂を掠め、直接胃の奥まで唾液を飲まされる。拒むことなどできるはずもなく、ノクシャスの腕の中、がっちりと後頭部を掴まれたまま舌を絡められれば次第になにも考えられなくなっていく。 「っ、ん゛、ぅ、う゛……ッ、ふ、ぐむ……ッ!」 「っ、は……お前まじで口もベロも小せえよなあ」 「の、くしゃすさんが……ッ」  ノクシャスの体がデカいだけだ、と続けることはできなかった。子供のように腰を抱き抱えられ、ノクシャスの膝の上に乗せられるのだ。  そのまま再びキスをされれば、その先の言葉を発することなどできなかった。 「っぢゅ、う゛……ッ、む゛、う……ッ」 「……は……ッ、舌、もっと突き出せよ」 「っ、ん、う……っ」  ノクシャスの膝の上、跨るように落とされた下腹部、その腿のあたりに当たるノクシャスの体の一部に目を奪われそうになり、思考を振り払う。ノクシャスが興奮してるのは一目瞭然だった。  もっと乱暴にされるのではないかと思ったが、むしろこれはまずいのではないか。  言われるがままノクシャスの舌に重ねるように舌を突き出せば、ノクシャスは興奮したように一笑し、それから俺の舌を甘く噛むのだ。食い込む尖った牙の感触すら今では興奮剤になり得る。  酒は入っていないはずなのに、どうしてだ。ノクシャスを拒むことができない。逆らうことなど頭から抜け落ちていた。 「っ、ん、は、……ッ、う……ッ! ノクシャスさん……っ」 「……チッ、雑魚のくせに妙な声出すんじゃねえよ。それとも、そうやってあいつら誘ったのか?」 「っ、ち、が……ッ、ぉ、俺……ッんん……っ」  本当にそんなつもりはなかったんです、と言い終わるよりも先に、胸を揉まれて息を飲んだ。鋭い爪が乳頭を押し潰し、そのまま固く凝り始めるそこを指の腹で転がすように愛撫するのだ。  それだけで胸の奥にじんわりと広がる熱はあっという間に全身へと回る。 「っ、ノクシャスさん……ッ」 「……っ、違わねえだろ」 「っ、ひ、う……ッ!」  捏ねられ、引っ張られる。玩具のように突起を愛撫されれば、次第に呼吸は浅くなり腰が浮いていくのだ。熱い、じんじんする。痛いのに、気持ちいい。 「……っ、はぁ、クソ……っ、まじで終わりだ、お前のせいだからな良平。わかってんのか?」 「っ、は、はい……っ、ぉ、おれが……ノクシャスさんを誘いました……ッ」 「ああ、そうだよなあ? ……口止め、すんだろ?」  腰を撫でられ、背筋が震える。額がぶつかるほどの至近距離、真正面からこちらを睨む双眼に身は竦むどころか熱が増す。目が逸らせなくなる俺を前にノクシャスは腕を伸ばし、「それ」とソファーの裏からなにかを取り出した。それはボトルに入った酒だった。 「責任取ってお前が飲ませろよ、良平」 「ッ……の、ませる……?」 「テメェで飲ませろっつってんだよ、なあ」  ノクシャスの言葉を理解したとき、顔が焼けるように熱くなった。  冗談でもなんでもない、この男、本気で言ってるのだ。片手でボトルを開けたノクシャスはそれを俺の手に握らせる。  既に酔っているようなものではないのか、なんて言えるわけがない。部屋全体流れるその淫蕩な空気に正常な判断などできるはずがなかった。  口止め、しないと。それだけが俺の頭の中に支配されていて、ノクシャスに言われるがまま俺は開いたボトルの口を咥える。中には度数の強い酒が入っていた。甘さなどない。嗅いだだけで粘膜ごと焼け付くような辛さとアルコール度数に目眩を覚えた。なるべくそれを飲まないように口に含んだ俺は、そのまま恐る恐るノクシャスの胸に手を置いた。そのまま背伸びをするように唇を寄せ、なるべく溢れないようにその唇に移そうとするが、そもそも口を開けてすらいないノクシャスの唇を割らせようと舌を出せば、口に含んだ酒は全て咥内から溢れてしまい、顎下から胸元まで垂れていくのだ。 「っ、ぁ……ッ」 「……っ、は、下手くそ」  笑い、ノクシャスは濡れた口元から首筋、胸元へと舌を這わせる。皮膚に垂れたアルコールを舐められ、ぶるりと体が震えた。 「もっと体使えよ。さっきみてえに」 「っ、ん、う……あッ、の、ふさふさ……ッ」  口をこじ開けられたまま、「そのまま」というノクシャスに酒のボトルごと咥えさせられる。そして開いたままの咥内に注がれるアルコール度数の高い酒。待ってください、と言う暇もなかった。今度はノクシャスの方から唇を重ねられ、唾液ごと咥内に溜まった酒を飲干される。 「っ、ふ、ぅ゛……ッ!」  全て受け渡すことなど最初から不可能だった。開いた喉奥に流れる酒に頭の奥がくらくらした。咥内の酒がなくなったあともノクシャスにキスをされ、爛れるように熱くなる咥内の粘膜中を舌で舐られ、犯される。  深く口づけをされ、視界は歪み始める。酔いが回り始めたのだとわかった。指先に力が入らず、ノクシャスの腕の中、しなだれかかるようにノクシャスにされるがままになる。  呼吸が浅くなり、新鮮な空気を取り入れようと喘ぐ俺の胸にノクシャスはボトルを傾けるのだ。 「っ、ひ、う……ッ!」 「おい、動くなよ。飲ませろって言っただろ」 「は、は……い……ッ」  胸元に垂らされる冷たい酒はあっという間に皮膚の体温に溶ける。当たり前のように酒は胸から太腿、下腹部まで流れ落ち、濡れ、照明でぬらりと光る胸元にノクシャスはなんの疑いもなく唇を寄せるのだ。胸から脇腹、臍、腰、恥骨まで。至るところを皮膚ごと舐められ、じゃれるように甘く噛み付かれる。窪んだ臍に溜まった微かな酒を啜られ、その穴に舌をねじ込まれれば内臓を掻き回されるような感覚に堪らず身悶えた。 「の、くしゃすさん……っ、そ、こは……」 「ッ、は、熱いなお前の体。……おい、酒追加しろ。足んねえぞ」  いつの間にか、ソファーの座面の上に押し倒されていた。跨っていたはずの俺の下腹部、覆いかぶさってくるノクシャスは俺の腹部に顔を埋めたまま促してくるのだ。  臍に指をねじ込まれ、左右にぐに、と開かれ更に舌で舐られれば内腿が震えた。 「っ、……足んねえな」 「あ、や……ッ、も……」  せっかく風呂に入ったのになにもかもが台無しだ。わかっていたが、俺の衣服だけではない。部屋が酒の匂いになろうが、ソファーが汚れようが、床に染みようがノクシャスは構わず俺の頭から酒をぶっかけるのだ。そして、前髪から滴り落ち、額から頬まで濡らす酒をべろりと舐め、そのまま甘く噛み付く。吸われ、そのまま唇を噛まれ、キスをされるのだ。自分の服が汚れようともノクシャスは構わず、俺の全身を文字通り味わう。  尖った乳首の薄皮ごと咥えられ、吸われ、舌先で転がされる。捕食にも似た行為、覗く尖った牙に一瞬緊張するが、それもすぐに掻き消されるのだ。 「っ、ノクシャスさん……ッ」  薄々感じてはいた。いくら酒が入ろうが、火がないところには煙は立たないのだ。  ぢゅぶ、と音を立て、乳首を吸い上げたノクシャスはこちらを覗き込む。  その目は据わっていた。アルコールが回りきってるのは一目瞭然だった。 「ん、う……っ、は、お前全身酒の味すんな……良平」  耳朶を甘く噛まれ、耳朶の溝に這わされる舌に腰が震えた。鼓膜を震わせる低い声。 「……もっと食わせろよ」  アルコールと熱で蕩けたその声は欲情しきっているのが俺でもわかる。  押し付けられるテント張った下腹部の膨らみに息を飲んだ。  ――この人、荒っぽい性格と見た目とは裏腹にめちゃくちゃねちっこいぞ。

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